焦涙
港に止まった一台のパトカー。
サイレンの音を響かせている。
「颯太。私たち捕まっちゃうのかな……」
「いや、大丈夫だよ。きっと……」
その音は、私たちのメンタルをじわじわと抉っている。
でも、葵君は、私たちより辛い状況にある。
葵君を助けるために、香ちゃんは走った。
いまみんな、何かしら頑張っているんだ。
なら、私にできることをやらないと……。
「私、もう一回港倉庫に行く!」
「何のために行くの?」
「あそこには島の外の危ない人がたくさんいるんだよね?」
「うん、多分……」
「なら、その人たちを島の外に追い出せば、解決するよね」
「確かにそうかもしれないけど、警察が来てるんだし、俺達は動かない方がいいよ」
「でも、それじゃあ、私たちは何もできないの?」
「伊織。落ち着いて。《《今は》》待とう」
何もできない、もどかしさ。
強く吹く潮風。音を立てて揺れる草木。
物音一つが、肌に触れる感覚が、視界に入る自然が、
焦燥と、いつも通りの日常とのギャップ。
それがさらに感情を引き立たせる。
「でも!こないだも葵君任せだったからあんなことになったの忘れたの?」
あの、学園での戦いの時。
私は肩を銃で撃たれた。
そのとき、葵君は感情を荒げていた。
私のために怒ってくれた。
倉庫の中でも、私たちのために、汚れ役を買って出た。
なのに、私は葵君に何かしてあげれた?
葵君と、颯太の後ろに隠れて、やるべきことを香ちゃんに任せっきり。
私は、何もできていない。
「伊織」
「な――」
後ろから、颯太がハグをしてきた。
温かく、少し力強く、不器用な抱擁。
その不器用さが逆に、安心させてくれる。
「伊織の気持ちは、痛いほどわかるよ。俺もきっと同じ気持ちだ」
「――だから、焦らなくていいんだよ」
……あれ?どうしてだろう……。
涙が止まらない。
「泣きたいだけ泣いていいんだよ。いつでも俺が傍にいてあげるからね」
我儘言ったのに、こんなに優しくするなんてずるいよ……。
止めようと思っても、もう涙が止まらない。
「我儘言って、ごめん! 私足手まといだから、みんなの役に立たないとって!」
涙が止まるまで、ずっと颯太は私をハグし続けてくれた。




