結末
あの学園の戦いから3日の時間が過ぎた。
あの戦いで多くの人が傷ついたけど、その分いいことだってあった
***
戦いが終わり、その場にいた全員俺たちの周りに集まってきた。
「俺は家族の為にも薬が欲しかったんだ。」
「命がかかってるからって殺そうとしたこと許して欲しい。」
多くの人が謝罪、言い訳を並べ。また、去っていく。
俺はそれを適当に聞き流し、颯太の元へ行く。
元々動けるような状態じゃないのに無理してこっちまで来ているのだ。
心配しない方がおかしい。
「颯太、大丈夫?」
「呼び方が変わってる」
「そんなことよりお前のことだよ、さっきまでまともに歩けてもなかったじゃん!」
「まぁ、辛いのは変わんないけどさっきよりはマシかな」
颯太の顔からは先程までの冷や汗も青ざめた表情も消えており嘘ではないと感じられた。
「なぁ、謝罪とかいいから誰か薬もってないか?こいつもうアセビ末期なんだよ」
奏斗が声を上げ、全員に聞いて回る。
ただ、聞いても聞いても出てくる答えは知らない、分からないの一言。
「あの、もしかしたらこれがその薬です。」
そう言って出てきたのは1人の中年で少し小太りな男。その手には小瓶に入った色水のようなものだった。
「これ、保健室の薬棚の中に一つだけ置かれていたんです。もしかしたら、と思って隠し持ってたんです」
「それを俺たちが貰ってもいいんですか?あなたも必要だから、探してたんですよね?」
男は首を横に振った。その顔は優しさに包まれていた。
「もしもの時のためにって、ここに来たので俺の周りで感染者はいません。それに、未来ある若者に使うのが1番だと僕は思うので」
そう言ってその小瓶を差し出す。
俺はありがとうございます。そう繰り返して頭を下げた。
「今起きたこと、本来なら僕たち大人が止めるべきことなのに止められなかったこと、本当に申し訳なかった。僕が言えることでは無いけれど君達が無事でよかったよ」
周りの人間は様々な感情を俺たちに向けてきたが、その言葉にみな黙ることしか出来なかった。
そして、俺はその小瓶の蓋を開け、颯太に飲ませた。颯太はそれを飲むと眠いと、目をつぶり眠りに入った。
不思議とその顔は落ち着きのある穏やかな顔をしていた。
、、、薬って飲ませてよかったのかな、
もし注射とかじゃないとダメだったり、少量じゃないとダメとかだったらどうしよ、
*
俺は夢を見ていたのかもしれない。
さっきまでとは全然世界が違って見えた。
灰色の世界に色が塗られて、風の音も木々の揺れる音も全部が心地よい。
俺は葵達が見つけてくれた薬を飲んで、眠りについた。そして、目を覚ましたらこれだ。
これを夢じゃないというのなら、どれほどまでに嬉しいものか。
体を起こすとそこには葵、奏斗、向井がいた。
伊織の姿が見えず葵に目線を送ると、葵は俺の足元に指を指した。
顔を真っ赤に泣き腫らし、ぐしゃぐしゃの顔を布団にうずくめる伊織がそこにいた。
でも、その顔に辛そうな印象は全くなかった。
俺は自然と伊織の頭を撫でていた。
「ん、、フフッ」
突然伊織が俺に抱きついてきた。
俺も抱き返す。
俺は生きてたんだ。
「みんな、ただいま」
「おかえり」
その声に反応したのは伊織だけで、葵たちはニヤニヤと嬉しそうに教室から出ていった。
これは、あれだな、男として試されてるな。
俺は覚悟を決めて伊織に向き合う
「なぁ、伊織。俺たちまだ知り合って1日も経ってないよな」
これは声のトーンを少し落とし、イケボを作る。
しかし、それは不自然だったのか不思議そうに伊織はうん。と返事を返す
「まだ、少しの時間しか一緒に入れてないけど、その少しの時間で俺は伊織の存在が大切になったみたいでさ」
伊織は少し間の抜けた顔をしたが、すぐにぼん!と、顔を赤らめた。
「まだ、お互いのこと全く知らないけどさ、俺たちこれからも仲良くできるか、」
「死ぬまで」
俺が言い切る前に、食い気味に返事をした。
伊織は真剣な眼差しで俺の目を見る。
「死ぬまで一緒がいい、私、進藤くんのこと好き」
先に言われた。
俺が、言いたかったのに、、
でも、そんなことでクヨクヨしてられない!
ここまで来たら勢いだ!
「俺も好きだ!伊織!付き合ってください!!」
俺は手を差し出す。
伊織はその手を払い除け、また俺に抱きつく。
俺もまた、抱き返す。
その手は暖かく、力強く。
もう二度と離れない、決意の表れでもあった。
*
「じゃあ、葵くん。俺はもう行くわ。」
「君の命を取ろうとしたこと、改めて謝罪させてくれ、申し訳なかった」
深々と向井さんは頭を下げた。
俺はそれを見ても何も思うことは無かった。
だって、こいつも俺と同じ犠牲者でしかないから。
「頭上げてくださいよ、向井さんがいなかったら俺今ここにいれたかわかんなかったですもん」
向井は顔を上げて手を出す。
「もし、困ったことがあったらすぐに呼んで欲しい。死ぬ気で助けに行くから」
「心強いです」
そして、俺たちは別れを告げた。
別れに悲しいという気持ちはなかった。
また、会える。そう思えたから。
彼の大きな手はとても力強く、硬くなったゴツゴツとしたタコがとても心強く感じられた。
「あっ、俺の仕事仲間、花村 夜って言うんだけど、2日後の正午、南の港でって言ってたぞ」
「花村夜さんか、わかりました。奏斗も向井さんも本当にありがとうございました!」
「おうよ!じゃあ、またな」
そう言って、奏斗はこの学園を出ていった。
「、、、なあ、俺がさん付けで奏斗が呼び捨てなのって見た目のせいなのかな」
「さぁ、でも俺も同い年には見えないよ、貫禄があるからかな?」
「貫禄なんてあるのか?」
*
あ。短く、一言出てしまった。
俺が2人の元に戻ろうと教室の扉を開いたら2人が泣きながら抱き合ってるから。
めっっっっっちゃ気まずい。
俺は音を殺し、扉を閉めた。そして、また音を殺して、その場を去った。
そこで俺はスマホが震えていることに気がついた。
それは香織からの電話だった。
『葵昨日帰ってこなかったけど、どうしたの』
『あぁ、友達に誘われたから泊まりに行ってたんだよ』
『葵が友達とって言ってる時って大抵嘘ついてるんだよね。何隠してんの、今すぐ家に来て話してもらうから』
まだ、時間もあるし家に帰るぐらいいいか。
俺は颯太にメールだけ残し家に向かった。
***
久しぶりの我が家。
香織がアセビに感染して、紫苑さんが死んで、薬がなくなって、香織が助からないかも、って思ったら怖くて俺は香織に向き合うことが出来なかった。
さっきのメッセージが届かなければ俺はもしかしたらこの家に帰ってくることもなかっただろう。
いつものように玄関の扉に手をかけるが、とても重く感じる。
でも、俺も香織も両親を失っていて心のどこかに寂しさを感じている。それに加えて香織はほぼ余命宣告されたようなものなのだ。
俺は、香織との残り少ない時間を無くしてしまったことに対する後悔、香織の為と大義を見出し、あの場で多くの人を傷つけたことに自責の念を感じ、様々な感情に襲われた。そして気づくと涙が溢れてきた。
頬を伝う涙の数だけ辛く、苦しく、また逃げ出したいと感情が零れる。
でも、それじゃ何一つ変わらない。
でも、勇気が出ない。
でも、香織は俺以上に辛いのだ。
でも、俺は人を傷つけた。
その手を香織は取ってくれるのだろうか。
思考が止まらず、頭の中をぐるぐると何かが巡っている。
「何やってんの」
それを、遮る聞きなれたあの声。
俺は逃げちゃダメだとわかっていたけど、逃げ出した。
*
「なんで逃げんの!葵!」
後ろから香織の叫びに近い声が聞こえる。
でも、足は止まらない。止められない。
逃げちゃいけないのに、俺は逃げた。
それは香織に向き合うことから逃げたのも同義。
だから、もう俺は香織の隣にいちゃいけないんだ。
自責の念が空回りし、どんどんマイナスな思考に落ちていく。
それを自分で止める事はもうできなかった。
「止まれってんだよ!バカ葵!」
唐突に、ドンッ!と衝撃と共に背中に柔らかく暖かい感触が襲ってきた。
その感触に困惑していると身体を包むように腕が回さて、俺はその場に倒れ込んだ。
その上には香織がいた。
「何があったの!そんな苦しそうな顔して!言わなかったら怒るよ!」
香織は顔を真っ赤にして今にも泣き出しそうだった。
「俺、怖かったんだ。香織がどこか遠くに行っちゃうんじゃないかって。」
俺は香織の顔を見るなり、今まで我慢していた感情が全て流れて来た。
アセビに感染は、死と同義。
俺はアセビで親を失った。ほんとに辛かった。
今も目を瞑るとそこにいつもお父さんとお母さんがいるんだ。
いつも見守ってくれる。
普通だったら、そう感じるだろう。
でも、俺にはそれは呪いだった。
それほどまで、大切な存在だったから。
でも、そんな辛い時いつも横には香織がいた。
香織は何も言わずに俺に何時間も付き合ってくれた。
「どこにも行かないよ。ずっと一緒、私は死ぬ時も葵と一緒がいい」
香織も涙を流し、それでも安心させようと必死に笑顔をつくって微笑む。
「私にとって葵は家族だから。」
「俺もそうだよ」
俺らは笑顔で抱き合った。
ここに香織がいる。たとえそれが有限のものであっても。
今はこの幸せがあればいい。
そう思えた。
*
「ところで、昨日は何をしていたの?」
俺達は気持ちを落ち着かせ、家に戻った。
木目調の部屋の中アイスコーヒーの香りを広がせていた。
「実は、」
俺は全てを話した。
アセビの治療薬の事も、学校での出来事も。
そして、加藤の事も。
こんな現実離れした話を全て、香織は静かに聞いていた。
「俺は、人を何人も傷つけた、」
俺は、犯罪者だ。本当なら香織と一緒にいることは許されない。
でも、それでも、香織と一緒にいたい。
「私、他人を陥れてまで生きていたいなんて、思わないよ」
しかし、これは俺への罰なのだろう。
香織の答えは、拒絶。
「でも、そこまで私のことを思っていたってことだよね。正直、私も死ぬのは怖かった」
香織は涙を流していた。
それはどこか、苦しそうだった。
「でも、しょうがないものなんだなって割り切ってたの。だから葵が私のために薬を探してくれたってのを聞いて嬉しかったし、葵の友達が治ったかもって聞いて希望も持てた。」
「葵、まだ諦めてないんでしょ?」
香織は涙を拭き、また笑顔を作る。
その笑顔は今までとは違う、どこか覚悟を感じるものだ。
「私も次は連れて行って。私が葵が手を汚さないように、ちゃんと見ていてあげる。」
立ち上がり、手を差し出す。
本当なら俺はその手を取ってはいけない。
俺はもう許されるべき人間じゃないから。
でも、香織は手を差し伸べた。
それに答えなければ、それこそ許されないことだろう。
俺は香織のその暖かく優しい手を優しく握った。
柔らかくて、安心する。離したくなかった。
そんな気持ちが伝わったのか、香織も優しく握り返してくれた。
「ありがとう。葵」
第1部 学園戦争編 ~完~
どうも猫宮いたなです。
ここまで読んでくださった皆さん、
なろう、カクヨム。Twitterで拡散などをして応援してくださった皆さん。本当にありがとうございます!
まだこの物語始まったばかり、ここからのみんなの活躍もお楽しみいただけるとありがたいです!




