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ダレガタメニ  作者: 猫宮いたな
学園戦争
16/40

開戦


月も沈み始めた、深い夜。

暗く、重苦しい空気の廊下を歩く5人の人影。

彼らの顔には、怒り、恨み、覚悟それぞれの感情が映し出されている。


彼らの行き先は学園のグラウンド。

そこは島と提携し、野球場、サッカーコート、テニスコートにプールなど。島のスポーツ場を担う場所だった。


そこが俺たちの命運を握る舞台だ。


油断はなし。優しさもなし。ここから先は

1つのミスで誰かの命が危機にさらされるからな。



「全員とりあえず、道具は持っているよな?」


俺は全員に聞いた。

今から俺達は薬の激しい奪い合いに巻き込まれるだろう。

だから、最低限の自衛の道具を用意した。

包丁に、目くらまし、化学薬品。

俺たちの目的は薬を手にすることであって人を殺すことでは無い。

これ以上は必要ないだろう。


「作戦は俺と奏斗で交渉をする。3人は最低限の自衛だけしてもらう。向井、俺はまだ完全に信頼してる訳じゃないけど、今はこうするしかないからお前に頼んでる。俺のダチを傷つけたら殺すからな」


これはあくまで俺らが主導権を握れた場合なのだが、

正直薬が向こうにある時点でそんな都合よく行くことは無いだろう。

でも、今はもしもの作戦を考えてる時間すらないだ。


もう、既にグラウンドには多くの人間が集まっていた。

加藤の目的が分からない以上、下手なことをされては困るのだ。

俺達は目の前にあるグラウンドへ続く扉を空け、外に出た。


「やぁやぁ、向井くん。君のGPSが死んだから、わざわざ来てあげたよ」


俺たちの姿を見た瞬間、加藤がニタニタと鼻につく薄ら笑いの顔を向けてきた。


「なぁ、加藤さん、あんたがこいつを従えてたんなら俺がわざわざ来る必要なかったよな!?」


俺は問う。

それに対する答えは簡単なものだった


「向井ひとりじゃ心もとないし、俺は君がこの世でいちばん嫌いでね、向井に殺されればいいかなってね」


加藤の言葉に俺は一つ心当たりがあった。

しかし、考えるよりも先に奏斗は集中、と一言

言うと加藤に殺意の目を向けていた。


「葵くんのご両親は優秀だ。人間性に優れ、人望があり、島民代表として活躍なさっていた!」


加藤は唐突に両手を掲げ、俺の親のことを語り始めた。


「アセビに感染し、亡くなった時には、自身の遺体を解剖させアセビの治療薬完成に一役買ったと聞いたよ!

実に素晴らしいじゃないか!しかし!しかし!しかし!!しかし!!!しかし!!!!!!!」


掲げてあった両手を下げ、顔を覆うように手をおき、

はぁ、と息を漏らす。

一息ついた加藤は爪を立て、自身の顔を激しく引き裂いた。

やつの爪には額から流れる血がベッタリとついている


その場にいる俺達を含む多くの人はその行動に困惑し、言葉を出せずにいた。


「君の両親は、優秀だったのに!アセビなんかに敗北し、この世を去った!本当なら私が私自らが!この手を汚してまで彼らを殺そうと思っていたのに!」


傷だらけの顔から血が滴り、加藤の顔は鮮血に染まる。

それでも、やつは止まらない。


「本来なら!私がこの島の代表になるはずだったのに!君のご両親は優秀だから!卑怯な手で私からその座を奪った!だから!お前も!お前の仲間も!あいつらを支持していた奴らも!全員この島の敵だ!この島に嘘つきはいらない、、」


血まみれの手を俺に向ける。

その顔も姿も、全てが俺の神経を逆撫でするような嫌悪感に襲われる。


あいつは、自分が島民の代表になれなかったから俺たちを殺すと言って言っているのか?

理解はできない。でも、俺の大切な人達を愚弄したことはわかった。

俺は大切な人をバカにされるのがこの世で1番嫌いなんだ。


俺のお父さんもお母さんも。島の人に慕われていた。島の人たちを家族のように思っていた。

だからこそ、島の代表となった。

加藤のような私利私欲に呑まれたカスとは違う。


「お前だけは、許さない」


気がついたら、俺は加藤に向かって駆け出していた。

手には包丁と目眩し。


最悪、あいつが死ぬぐらいもうどうだっていい。

だって、あいつは生きてる限り俺達の命を脅かす存在であるんだから。


「おまえら!あいつらを殺したヤツらにこの薬を渡してやる!奴らを殺せ!」


加藤の命令に戸惑いつつもその命欲しさに多くの人間が俺に襲ってくる。

ただ、俺の後ろには奏斗と向井が居る。

銃口を向けられる恐怖というのは大人であろうが関係ない。

そして、少しでも動きが止まれば、奏斗はその隙を逃すことは無い。


空手の後ろ回し蹴りに正拳突き。ボクシングの打撃に、柔道の投げ。

奏斗は最低限のダメージで敵を無力化していく。


俺は奏斗の事は全く分からないが、これだけは分かる


|坂崎奏斗は化け物である《・・・・・・・・・・・》。


それでも、元は人間である。奏斗にも限界はある。

奏斗の横をすり抜け俺の元へ走って来る影が後ろから現れ段々と大きくなる。


パンッ!


乾いた一発の銃声が当たりをつつみ、その場にいたほとんどの人間はその動きを一瞬、停止させた。


その銃声は向井が俺の後ろにいた2人を撃ち抜くために発砲した音であった。


さっきまで後ろにいた向井は進藤達をテニスコートの近くに移動させ、そこから一発で後ろにいた2人の足を正確に撃ち抜いていた。


効率良く、獲物を撃つために向井は最善な位置に常に移動し続ける。


向井は走り、颯太と伊織はそれについて行くのに必死。

しかし、向井は二人の近くに虫1匹近づけんとしていた。


「俺は毎日島を荒らす猛獣とやり合っているんだ!お前らぐらい余裕で打ち抜けるってんだ!」


それは毎日島を守り、俺達のために命を賭して戦う一人の男の姿であった。


「「「「行け!!」」」」


俺はみんなの声を背に加藤に再び向かい、走り始める。

奏斗と向井のアシストもあるが、それでも数が多い。

全てを無力化はできない。


だけど、俺は香織、進藤、伊織。お父さんとお母さん。みんなの思いを背負っている。

負けるわけには行かない。


俺の前にはおよそ10人の男。しかも大人だ。

しかし、武器は持っていない。

それに比べこっちは武器こそあるが子供だ。

普通にやったら負ける。


なら、


俺は手に持っている包みを奴らに向けて投げる。

その包みは奴らの前で解放され、目の前を煙幕のように煙で包む。

さらに、皿や画鋲が奴らを切り裂く。

地面に落ちたそれらは撒菱のようにその場に残り、動きを制限する。


この島の人間は基本的にサンダルを履くことが多いから撒菱なんて投げられたら下手に動けない。


本能は痛みを避けるからどんな人間でも一瞬躊躇う。


その隙が欲しかった。

おれは、煙を大きく避けるように走り、奴らの攻撃をしりぞけた。


加藤との距離はもう100mもない。

邪魔をするやつもほとんど居ない。


俺の目の前にいるやつは体が竦んで動けなくなっている。


段々と加藤との距離は小さくなっていく。

加藤は本気で恐怖を感じたのかその余裕に満ち溢れた顔を引き攣らせ、後退り。


ここから逃げようってのか?

俺たちをこんな目に合わせたのに?

許せると思うか?いや、思うわけが無いね。

絶対逃がさない。


俺はさらに加速。空気を切り裂く音すら遅れて聞こえる。そう錯覚するほどのスピード。


捕まえた。


しかし、加藤は着ていたジャケットの中に手を突っ込み次の瞬間、想像もしていないことが起きた。


それは乾いた銃声だった。

加藤の手に握られていたのは拳銃。

そしてその銃口が向いていたのは俺の後ろ、

颯太と伊織の方向だった。


俺はその足を反射的に止めて、2人を視界に入れる。

その銃弾は伊織の肩を掠めていた。


今まで経験したことの無いような灼熱感と痛み、

伊織はそれに耐えられず、肩を抑え、その場にしゃがみこむ。


その瞬間、俺はなにか糸が切れる感覚に襲われた。


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