放送
「加藤ってのは北区の加藤信也だよな」
俺は聞いた。
もし、こいつの言う加藤が俺をここに誘導した加藤信也なら、全ての辻褄が合うのだ。
「そうだ、北区の村長の加藤信也だよ。あいつはこの島に恨みを抱いている。あいつはもう止まらない」
やはり、そうだ。
加藤が今回のこの事件の犯人だったのだ。
「島全体を恨んでいるなら、お前の家族危ないぞ」
奏斗はこいつの話を聞いてからずっと何か考え込んでいた。
「おそらく、お前があいつの希望通りに動いても、用が無くなれば殺すし、仕事が出来なかったら、罰として殺す。お前はそれでもいいのか?」
奏斗は男の目をまっすぐ見ていた。
加藤が今この男の家族を人質としている以上こいつは下手に動けない。
ただ、かと言って今俺達に負けたことが知れればこいつの家族が危険な目に遭うのは容易に想像がつく。
それに、もし加藤がこいつ以外に仲間を集めているとしたら、
俺たちと、薬を欲しがっているヤツら、そして加藤たち。
三つ巴の形になってしまう。
俺達からしたらそれは何がなんでも阻止しないといけない。
自分達の命を守りながら薬を探すってことだけでも大変だってのに、さらにやることが増えたら手に負えない。
「お前、俺たちに協力する気はないか?」
奏斗は笑顔でそう問いた。
「奏斗、俺達はこいつに殺されかけたんだ。こいつを信頼できると思うか?それにこれ以上対立関係を作ると動きにくくなる」
そもそも、こいつの手伝いをしている間に香織の症状が悪化してしまったら。
そう考えると俺はこいつに協力する気にはなれなかった。
「まぁ、そうだよな。それは分かる。だからこいつに協力するのは俺1人だ。お前らの今の目的はこいつを止めることと薬を最低2つ手に入れることだろう?」
確かに、奏斗はこいつとの因縁がない。逆に言えば、協力しない理由が唯一ない。
奏斗個人がこいつに協力する分には問題は無い。
しかし、奏斗は紫苑と俺達を繋ぐキーマンでもあるのだ。ここで離脱してもらう事は出来ない。
「安心しな、実は俺の幼馴染がこの島に来ている。そいつに今回の仕事を引き継ぐ。そうすればお前らが紫苑と会いやすくなるだろうと思ってさっき呼んでおいた」
こいつは、どこまで先を読んでいたのか。
俺の思考を全て読んでいたかのように先を読んで行動していた。
「ところで、お前の名前は?」
銃男の名前は確かに誰一人知らない。
奏斗にとってはしばらく行動を共にするやつだから名前ぐらいは知っておきたいのだろう
「向井あきら。島の猟師をやってる。」
向井か。その名前ぐらいは覚えておこう。
「じゃあとりあえず、やっと薬を探せるってことで、探しに行くか」
そう、俺達は今の今まで薬を安全に探す為の準備と向井を倒すための準備をしていたのだ。
だから、必要なものだけ集めていた俺達は学校の隅々まで見ることはしていなかった。
「その前にさ、加藤の事を教えて欲しいんだけど」
「どんなことが知りたいんだ」
「加藤は一体いつから今回のことを計画していた」
「計画自体は前からしていた、ただ奴が動き出したのは昨日だ。」
「昨日、急に動き出した?なぜこのタイミングで?」
「それは、」
『あー、あー、聞こえてるかな?えぇ北区村長の加藤です。唐突で悪いけど、ここにある薬は俺が手に入れました。薬が欲しいならグラウンドに集まってください。ちなみに暴力行為を起こしたものに薬を渡すことは出来ないのであしからず。』
全く、毎度毎度なんて言うタイミングで来るんだが、
奏斗と向井の敵の加藤が俺達が狙っている薬を持っているとはな。
「もちろん、いくよな?」
俺が立ち上がると、その場にいる全員が立ち上がった。
「じゃあ、行こうか」
これが、この学校で起こる最後で一番の戦いになるだろう。