回答
夕陽が完全に沈み、実験室にあったライト1つを頼りに俺たちは闇夜を紛らわせていた。
進藤は涙ながらに俺たちに
「薬が欲しかった訳じゃない」そう告げた。
さっきまで涙も見せず、ただ、淡々と俺たちに協力する強いやつだって勝手に思っていたが、
俺の前にいる男はただ強がっていただけだったんだ。
本当は怖かった、けどその事実に目を背けることしかできなかったんだろう。
「俺、実は紫苑さんのとこでアセビについて、一緒に勉強していたんだ」
進藤の姿を見ると胸が苦しくなる。
涙ぐんで声が詰まってしまう。
そして、進藤はちゃんと話してくれた。なら、俺だってちゃんと話すべきだろう。
だから、俺は全てを話した。
治療薬は複数あったこと、そのうちひとつは元々俺が貰うことになっていたこと。
そして、俺の両親のこと、香織のことも。
お互い腹を割って話をするべきだと思ったから。
進藤は黙って聞いていた。
進藤はさっきまで横になっていた自分の体をほぼ無理矢理起こそうとしている。
進藤の体は小刻みに震えてるのがわかる。
体も精神も、もう限界に近いのだろう。
「生きたいって、思うのって変かな、、ついさっきまでいつ死んでもいいようにって思ってたけど、死にたくないよ、」
進藤の言葉に俺達はしばらく何も言葉が出せなかった。
俺も伊織もほぼ同時に進藤に歩み寄って、3人で抱き合った。
そしてみんなで泣いた。
涙が枯れても、声が出なくなっても、永遠に思える時間の中、俺達3人は泣いていた。
*
どれくらい、時間が経っただろう。
スマホの時計を確認すると、俺達は軽く30分も泣いていたらしい。
俺達がなき会ってる間、奏斗は静かに見守ってくれていたが、俺達が落ち着いたことを確認すると一言、こう発した。
「アセビってよ、ほんとに感染症なのか?」
俺にはその言葉の意味が理解できなかった。
アセビが感染症では無いならなんだと言うのか。
おそらく、進藤も伊織も同じことを考えている。
2人は顔を見合せ首を傾げている。
「要は、これって《《人為的に起こされたもの》》なんじゃないかってこと」
俺はそれを聞いて、少し感じることがあった。
それは、さっき図書館で見た島民名簿だった。
あそこにはおそらくアセビの感染者に赤いバツ印がつけられていたのだが、その赤いバツ印はあるページから突如付き始めたのだ。
もしアセビが普通の感染症なら年齢、性別など関係なしにほとんどの人にかかる可能性がある。
しかし、あのノートには生年月日なども書かれていたのだが、60歳以上の高齢期の人に感染者はいなかった。
つまり、奏斗の言う人為的に起こされているということもありえるのだろう。
しかし、一体誰がこんなことを起こしているのだろうか。
奏斗は俺たちに構わず話を続ける。
「俺的には犯人は2つのパターンに分かれると思う。まず1つ目はこの島全体、もしくは島民の一部に恨みを持つ奴。2つ目は島の外から来た奴」
「島全体に恨みがあるやつか、」
俺の頭に浮かんだ一人の影。
確実では無いけれど可能性は拭えない。
「まず、島、島民に恨みを持ってるやつが犯人と考える理由だが、これは簡単。復讐の為だろう。」
それまでずっと黙っていた伊織が口を開く。
「もしそうなら、その恨みの対象の人だけを狙えばいいのになんで関係ない私達までも巻き込まれないといけないの?」
それは、友達を傷つけられた、優しい彼女らしい。
怒りの表れだった。
「たしかにな、この島に恨みを持ってたとしてもそれはお前らには関係ないよな」
この教室に暗い空気が流れる。
薄暗い状況も相まってか、声を出すのも億劫だ。
「でも、これは仮定の話だ。まだ決まってもないことに本気になっていたら後々辛くなると思うよ」
奏斗はここに来てからずっと俺たちを心配していた。
それこそ、初対面のはずの2人の背中をずっと擦って、
辛いよな、大丈夫だからな。
と、呟いているのだから。
「で、島の外から来たやつが犯人だと思う理由は?」
俺は奏斗に問いた。
そして奏斗は一言こう言った。
「人間って自分の目的の為ならどんなことだってできるんだよ。それはもうみんなもわかるだろ?」
確かに、俺は香織のために進藤は自分自身の為に、伊織はお兄さんのような犠牲者を増やさないように。
ゴールは違えと、皆何かしらの目的を持っていた。
「俺としては、アセビは薬を通して感染する。毒で、それに感染したらどうなるか確認するためにここが犠牲になった。とか、あとは、どんな薬もマウスで実験したあと人に対して実験するんだが、それがここで行われているとか、」
確かに、数年前にも全国的に流行った感染症の治療薬の臨床試験が大々的に行われたこともあるが、それなら事前の説明が必要だ。
かと言って、そもそも感染経路が曖昧な中で誰が犯人かなんてそうそう分かるはずがないんだ。
「ねぇ、その話進める前にさまず、その人誰か説明してもらえる?」
「あっ、紹介し忘れてたね、この人は奏斗さん。さっき銃男に襲われて逃げた先にいて俺たちに協力してくれるって」
「どうも〜、坂崎奏斗です。何でも屋ってやつやってるからもし良かったら依、、「あっ!」」
「なに!?どうしたの」
伊織は驚いて目を見開いてる。
急にでかい声出してごめん、、
「いや、奏斗たしか紫苑さんに依頼されてここに来たんじゃなかったっけ」
「うん。そうだけどそれがどうしたの?」
「奏斗には言ってなかったけど、紫苑さん昨日殺されたらしいんだ。で、犯人が自首したらしいんだけど、今奏斗の話と合わせてみたら合点がいくんだけど、」
「その、犯人がアセビを広めたっていいたいのか?」
「だって、犯人がもしアセビを広めることを目的にしているなら治療薬を完成させた紫苑さんが邪魔になるでしょ?」
「でも、それなら今度はどうやってその犯人が広めたって話になるよ」
「それは、」
「今、私達に考えたって分かるはずないんだよ」
「確かに、今はとりあえず治療薬を探そう」
ただ、俺の中にはずっと違和感があった。
なぜ島民のほぼ全員が紫苑さんが死んだこと、
薬がここにあると知っているのだろう。
その時、唐突にガラガラと物音が聞こえた。
その音は実験室の扉が開く音だった。
「やっと、見つけた」