再会
「まっ、俺の話はこんな感じだね」
「今の話にあんたを信頼できる要素ありました?」
夕陽が沈み始め、段々と暗くなっていく。
「でも、僕が着いてきても何も言わないじゃないか」
俺と奏斗は進藤と伊織と合流するために、実験室に向かっている。
と言うか勝手に後ろに着いてくる。
悪い人ではないのだろうがまだ共に行動できるぐらいの信頼は俺には無い。
ただ、明らかにこいつは銃男よりも強いだろうということから俺は下手にこいつに手が出せない。
辺りが暗いからだろうか、それともそれは全く関係ないかもしれないが、俺は廊下を歩いている間進藤のことが頭から離れず、もし薬が見つからなかったら、薬が1つしか残ってなかったら。
もしかしたら香織もこうなってしまうのか。と、 必要のない悪い思考に陥ってしまう。
不意に、肩にトン、と何かが当たる感覚があった。
それは奏斗の手であり、奏斗は俺の目を見て、
大丈夫。と笑顔でそう呟いた。
そして俺たちは、実験室に着いた。
扉がとても重く感じる。
元来葵は心配性で臆病な人間だった。
この状況下でその性格が悪い方向に働くのは自明の理と言うやつだ。
「香織のせいだからな、少し勇気を分けてくれ」
俺は奏斗にも聞こえないぐらいの小さい声でそう自分に言い聞かせる。
俺の願いが通じたのか、少し勇気が湧いてきた。
そして、実験室の扉を開けた。
*
実験室に入ると、机の上には俺が集めといて欲しいと頼んだものがズラっと並べられており、
部屋の隅には保健室から持ってきた布団に包まる進藤の姿とその背中を延々と撫でる伊織の姿があった。
扉を開ける音に2人は驚き肩を竦めたが、それらの行動が徒労となると伊織は立ち上がり、こちらへ近づいてくる。
「頼まれたものは全部集めたよ」
そう言う伊織は頬を膨らませ、見るからに怒っていますと言わんばかりに顔を赤く染めている。
そこで俺は気がついた。伊織からのメッセージに返信していないと。
やばいと思い謝ろうとしたが、気付くまでが遅すぎた。
声を出そうと思ったら、もう既に泣いているではないか。
「心配したんだよ、、急に返信来なくなったから、死んじゃったんじゃないかって!」
「さすがに、死んだってのは早とちりすぎるんじゃないか?」
「それぐらい心配だったの!」
伊織は俺の胸に飛び込みズズッっと鼻を鳴らし、耳まで真っ赤にして、俺の服を濡らしていた。
「ごめん」そう短く呟くが伊織には届いていないようで泣き止む気配が全くなかった。
俺は今どき恋人でもないやつにこんなことをするのはいいのだろうかなんて考えたが、そんなバカバカしい考えを捨て俺は伊織の頭を優しく撫でてやった。
唐突な事で驚いたのか、俺が頭を撫でたことで落ち着いたのかは分からないが、伊織は泣き止んで
「次心配させたら本気で怒るからね」
と、俺の腹を軽く小突いた。
「そんなイチャついてないでもう1人のお友達の事も心配してやりんさいよ」
奏斗が進藤に歩み寄り、大丈夫か?と一言声をかける。
進藤はほとんど体を動かさず、声も出さず、ただそこにいるだけだった。
「進藤、どうして俺たちに隠していたんだ?俺が家族を助けたいって言ったからか?」
進藤はしばらくの間を置き、布団にくるまったままこちらに寝返りをうつ。
今は夏だと言うのに、冬用の布団にくるまり、数時間ぶりに見たその顔には先程までの元気な様子は見えず、汗がダラダラと滝のように流れていた。
しかし、頭に手を置いても熱をほとんど感じないほど冷たかった。
「…元々俺は薬が欲しかったわけじゃないんだ。」