綺麗なお姉さんに恋をした
小さい頃から綺麗な人を見かけると目で追っていた。
周りの友達が異性の話題で盛り上がっているのを聞いても、
その気持ちに共感できなかった。
周りに合わせるのは疲れる。
だからあまり関わらなくなった。
それでも学校という集団行動を強制される場所では、
関わらないという選択肢はないわけで。
息苦しさを感じながら、時々一人になれる場所を探して彷徨って
やっと見つけた人の目を気にせず安らげる場所、
それが図書室の一番奥の本棚と壁の隙間。
ちょうどすっぽり嵌まり込める空間がすごく落ち着く。
普段どこにいても、何故か誰かの視線が追いかけてきて落ち着かない私にとって
この場所は唯一安らげる空間だったりする。
この女子高はかわいい子や綺麗な子がたくさんいる。
もちろん目の保養ではあるし、関わりたいとも思うけれど
小心者で人見知りな私にはそんな子たちと話すこともできない。
大体そういう子たちはクラスのカースト上位のグループに所属している訳で
雲の上の存在でしかない。
そうして、私はクラスで影の薄い窓際の人になっているわけだけど、
ありがたいことに優しい人はいるわけで、
いつもさりげなく私を一緒のグループに入れてくれる子のお陰でボッチというわけではない。
それでも話題にはついていけないので
いつも相づちをうつか、そこにいるだけではあるんだけどね。
昼休みや放課後は私の好きなようにさせてくれるのが嬉しい。
だからお気に入りの空間でいつも安らげる。
その空間では綺麗なお姉さんを思い浮かべて過ごす。
ただそれだけ。
そうしていると、時々寝ていることもあるけれど、そこでの眠りは本当に至福。
私には必須な時間だったりする。
そう、
だから放課後の至福の時間から目覚めた私の目に飛び込んできた
綺麗な瞳、整った顔立ち、ストレートの黒髪のその人に
私は心臓が飛び出るんじゃないかってくらいに驚いて目を見開き固まってしまったのは仕方ない。
そんな私を見つめる彼女は、そのまま顔を近付けてきて何の躊躇いもなく私に口づけてきた。
え??
ええ???
なんで?
私の混乱をよそに
角度を変えて何度も重ねられる唇は
やがてその合間から濡れた舌が私の唇に這わされて
ゾクゾクとした何かが背筋をかけていく。
「んっ」
思わず漏れた私の声に彼女は唇を離すと
私の頬にそっと片手を添えて目を覗き込みながら
もう片方の手の人差し指を私の唇の合わせ目に這わせて唇を開くように促す。
そうされると、自然と口を開いて彼女を迎え入れるように準備をしてしまう私は、彼女に魅せられているのだろう。
そんな私の反応をふふっと楽しそうに笑って
彼女は私の唇から指を離して立ち上がり
もう一度私の方に顔を近づけて
私の耳元に唇を寄せ
「またね。」
と囁いて
そのまま踵を返して本棚の向こう側に姿を消した。
そんな彼女のことをただ見つめるだけの私は、
彼女が視界から消えたことで
さっきの出来事が夢なんじゃないかと思いながら、そっと自分の唇に指を這わす。
夢?
でも、唇に残る微かな湿り気が彼女の存在を現実だと言っているようで、しばらく私はそこを動けないでいた。