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運命の人

作者: 十一橋P助

 マキは若いころから結婚願望があり、子供もほしいと思っていた。いつか運命の人が現れて結婚できるだろうと気楽に構えていた。しかしその願いも叶わぬまま、今年40歳の大台に乗ってしまった。見た目や性格が悪いわけでもなく、決して高望みしているわけでもない。ただ出会いがなかっただけなのだ。

 果たしてこの先私は結婚できるのだろうかと不安になったとき、彼女はある噂を耳にした。インターネット上によく当たる占いサイトがあるというのだ。

 藁にもすがる思いでそのページを探し当てると、まずこんな文言が目に飛び込んできた。

『AIとアカシックレコードの融合』

 AIはもちろん人工知能のことだが、アカシックレコードとは、この世の元始からのあらゆる事象が記録されたもの、ということらしい。過去から未来まで、世の中で起きることはここに全て記されていて、質問を与えればAIがそれを読み解き、答えを見つけ出してくれるというのだ。

 眉唾だと思いそのページを閉じかけたが、ふとマキの中にこんな思いが沸き起こった。過去から未来まで記録されているというのなら、試しに自分しか知らない過去を当てさせてみてはどうだろうか。そうすればこのサイトの真偽を図れるではないか。

 そこでまずは生年月日と氏名と国籍を入力し、質問欄にこう記入した。

〈小学4年のころ、遠足当日の朝に私の身に起こったアクシデントは?〉

 すぐにこんな答えが返ってきた。

〈喜び勇んで家を飛び出した直後、縁石に躓いて転倒。その際、首から提げていた水筒がちょうど地面と身体の間に入り、その先端が鳩尾を直撃。激痛と呼吸困難で悶絶〉

 マキは呆然となった。転倒したとき、家のすぐ前だったので呼べば親が来てくれたはずだ。だがそうすれば遠足を休まされるかもしれないと思い我慢したのだ。まさに自分しか知らない出来事なのに言い当てられてしまった。

 つい先ほどまで猜疑心に満ちていたマキの心は180度変わった。神に祈るような気持ちで、彼女は続けて質問欄にこう書き込んだ。

〈私に運命の人は現れますか?〉

 しばらく待つと答えが返ってくる。

〈あなたの運命の人は二人。一人はすでに出会っており、もう一人は二年後に出会います〉

「うそ……」と思わず言葉がこぼれた。

 慌てて質問を続ける。

〈それは誰ですか?〉

〈一人は中島弘樹という氏名の男性……〉

 脳裏にその顔がすぐ浮かんだ。会社の5年後輩だ。性格はまじめで仕事もできるが、筋トレが趣味らしく常に筋肉を意識している姿が見受けられた。マッチョが苦手なマキはこれまで全く意識してこなかったが、こういう展開になるとなんとなく好意を抱くようになるから不思議だ。

 思わずニヤニヤしながら答えの続きに目を向けた彼女の顔から瞬時に笑みが消える。その視線の先にはこんなことが記されていた。

〈もう一人は近藤彩という氏名の女性です〉

 え?女性?

 マキは混乱した。どうして女性?まさか結婚できないあまり同性に走ることになるのだろうか?いやいや、自分にその気はないのだからいくらなんでもありえない……のか?

 とにかく、ことの詳細はAIに訊いてみないことにはわからない。

〈どうして女性が運命の人なの?〉

〈運命の人は一人ではありません。中島弘樹と近藤彩の二人です〉

〈それならどうしてその二人が運命の人なの?〉

(2年後、あなたの勤め先に近藤彩が入社します。あなたが仲介役となり、中島弘樹と近藤彩は付き合うようになり、翌年結婚します)

 は?運命の人ってそういう意味?でもこれじゃあ私の運命の人じゃなくて、私がこの二人の運命の人ってことになるんじゃない?

 あ、そうか。運命の人なんて紛らわしい訊き方をしたからいけなかったのだ。

 マキはそう思い質問を変えてみることにした。

〈この先、私は結婚できますか?〉

(できます)

 その答えに思わず飛び上がってから、彼女は立て続けに質問をする。

〈それはいつのことでしょう?相手は誰で、どんな人で、なにをしていますか?〉

〈あなたが66歳のとき、40歳年下の男性と結婚をします。氏名は中島祐樹〉

 うそ。私、その歳まで結婚できないの?って言うよりその歳でわざわざ結婚?いやいやそれよりも、40歳年下?ありえない……。

 唖然とするマキの目に、さらに答えの続きが飛び込んでくる。

〈中島祐樹は中島弘樹と近藤彩の一人息子で無名のミュージシャン。そのころ資産家となったあなたの遺産を目当てに結婚を申し込みました〉

 情報量が多すぎて彼女はパニックになった。こんなことなら未来のことなど知らなければよかったと思うものの、唯一納得するところもあった。それは、自分にとってあの二人はある意味運命の人である、ということだった。


 


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