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第12話

 あるところに仲の良い家族がいました。父親は家族のために一生懸命働いており、母親はそんな夫を支えていました。

 そして子供たちはすくすくと成長していったのですが、その中でも一番下の子は病気がちだったこともあって学校に通うことが出来ずに家で留守番をすることが多かったそうです。

 それでも家族の愛情を一身に受けて育ったため、寂しさを感じることはありませんでした。むしろ幸せな日々を過ごしていたと言っても過言ではありません。

 そんなある日のこと、母親がある提案をしてきたのです。それはアルバイトをしてみてはどうかということでした。最初は断っていたのですが、どうしてもという母親の熱意に負けて引き受けることにしたのです。

 その結果、無事に採用されることとなり、仕事を始めました。最初の頃は失敗ばかりしていたのですが、次第に慣れてくると徐々に上手くいくようになっていきました。

 そうなると自信がついてきたので、もっと頑張ろうという気持ちになれましたね。

 おかげで今では楽しく働くことができていますし、給料もそこそこ良くなっているので満足しています。

 ちなみに勤務先は家から歩いて行ける距離にあるカフェなのですが、そこの店長さんとは顔馴染みになっており、よく相談に乗ってもらっているんですよ。

 というのも私と同じ境遇の人が多いようで、色々とアドバイスをしてくれるので助かっていますね。おかげで毎日充実しているので本当にありがたい限りです。これからも頑張っていこうと思います……




 私には妹がいます。名前は莉緒と言いまして年齢は16歳になります。私とはあまり似ていない妹でしたが、私にとってはたった一人の妹なので大切に思っていますよ。

 ただ一つだけ気になることがあるとすれば、あの子は身体が弱くて学校に通えていないことですね。小さい頃から入退院を繰り返しているような子だったので、友達と呼べる人がいなかったんです。

 だからいつも一人で過ごしていて、可哀想だと思っていました。本当はお見舞いに行きたかったのですが、両親からは止められていたので我慢するしかありませんでした。


 しかしある日のこと、両親が仕事で家を空けることになったので、その間だけ面倒を見てほしいと頼まれたのです。

 私は喜んで引き受けることにしました。そしてあの子がいる病室へと向かったのですが、中に入るなり驚かされましたよ。何しろベッドに横たわっている姿があまりにも痩せ細っているように見えたからです。

 その様子を見て不安になりつつも声をかけることにしました。すると弱々しい声で返事が返ってきたので安心したものです。

 それからしばらく話をした後で帰ることにしたのですが、その時にこんなお願いをされたのです。


「ねえ、お姉ちゃん。もしも僕が死んだらどうなると思う?」


 いきなりそんなことを言われたので驚いてしまいましたが、何とか平静を装って答えます。


「どうしたの急に? 何かあったの?」


 そう聞くと首を横に振りながら答えてくれました。


「別に何でもないんだけど聞いてみただけだよ」


 そう言って微笑む姿に胸が締め付けられるような痛みを感じたので、思わず抱き締めてしまいました。

 突然のことで驚いたのか固まっていたのですが、しばらくしてから落ち着いた様子で尋ねてきたのです。


「……お姉ちゃん、どうかしたの?」


 それに対して何も言えずにいると、今度は心配そうに顔を覗き込んできたのです。そこで慌てて取り繕うために言い訳を並べました。


「あ、ごめんね。何だか元気がなさそうだったから心配になっちゃって」


 すると納得したらしく頷いてくれたのでホッとしました。それと同時に罪悪感に襲われてしまったのです。

 何故なら嘘をついたことが原因ではなく、妹の身体に触れていることに対して後ろめたさを感じていたからです。

 正直に言うと興奮してしまったのですよ。普段は見ることの出来ない無防備な姿を目にしているという状況に興奮してしまっていたんです。しかも相手は病人ですから無理強いをするわけにはいきませんからね。

 そのため耐えるしかないわけですが、それがかえって辛かったりもしますね。ですが今は耐えなければならない時です。もう少しすれば両親は帰ってくるはずですからそれまでは我慢しないといけません。

 そんなことを考えながらひたすら時間が過ぎるのを待っていました。すると不意に声をかけられてドキッとしてしまいます。


「お姉ちゃん」


 呼ばれて振り返ると、そこには妹の姿がありました。その表情はいつもと違って真剣なものになっていて、こちらまで緊張してしまうほどでした。

 一体どうしたのだろうかと思っていると、ゆっくりと口を開いてこう言ったのです。


「お願いがあるんだけどいいかな?」


 その言葉に戸惑いながらも返事をすると、更に続けてこう言ってきたのです。


「僕を殺してほしいんだ」


 一瞬何を言っているのか理解できませんでしたが、すぐに我に帰ると反論しようとしました。しかしそれよりも先に妹の方が先に話し始めました。


「実は前から考えていたんだよ。このまま生きていても辛いだけだし、それならいっそ死んだ方が楽になれるんじゃないかなってね」


 それを聞いて愕然としました。まさかそんな事を考えているなんて夢にも思わなかったからです。

 ですが同時に納得もしていました。何故なら最近の妹はとても辛そうにしていたからです。

 その理由は分かっていましたが、あえて聞かないようにしてきました。恐らく本人も分かっているとは思うのですが、認めたくない気持ちがあったのでしょう。

 ですがこうして口に出したということは、もう限界だったということでしょうね。

 とはいえ簡単には頷けない問題でしたので悩んでしまうことになります。すると妹の方から再び声をかけてきたのです。


「やっぱり難しいかな?」


 それを聞いてハッとなりました。何故なら今にも泣き出しそうな顔をしていたからです。

 それを見て覚悟を決めた私は頷きました。すると嬉しそうな顔をしながらお礼を言ってきました。


「ありがとう! それじゃあ早速だけどお願いできるかな?」


 そう言われて頷くと、そのまま部屋を出ていきました。その後のことはよく覚えていませんが、どうやら眠っている間に処置を済ませたらしいです。

 そして翌日になって目を覚ました時には全てが終わっていたのでした……

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