奴隷になった日⑧
久々のましなご飯を食べた俺は、今住んでいる屋敷の主人ビンケットの娘。
エリー・フォン・キールヴァインというお嬢様からの命令で、屋敷の庭の掃除をしろと言われていた。
そして今現在とても広い屋敷の庭を掃除をしている。
最初は掃除をするような場所などあるだろうかと、疑うほどの綺麗な庭だったのだが。
どうやら、お嬢様には違う目的があったらしく、家の中にあるごみを持ってきては、俺の目の前に使用人に勢いよく辺りに散りばめるといった、なんともいやらしい嫌がらせをしてくる。
まぁ、こんなことをされるんじゃないかと思ってはいたが、正直精神的にキツイ。
俺がここを掃除し始めるときは、どこから持ってきたのかわからないような、埃やらを笑いながらチマチマやっていたのだ。
俺が顔色一つ変えずに、掃除していることが気に入らなかったらしく、どんどんエスカレートしていき、俺に向かって汚い溝みたいな匂いのする水をかけることから始まり。
今は、それに加えて生ごみ付きだ。
高笑いしながら、指さしながら罵倒し続ける糞お嬢。
それを、にやにやしながら見続ける使用人…………本当に腐っていやがる。
俺が何の反応を示さないで黙って掃除を続けていると、遂にその反応に限界が来たらしく、俺の目の前にづかづかと歩いてきて。
「おい! 奴隷、命令だ! 貴様のせいで靴が汚れた、この靴を舐めて綺麗にしろ」
「…………はい、仰せのままに」
してやったりといった顔で俺を見下ろす糞お嬢。
いやお嬢なんて気品ないか、ただの猿だ。
跪き命令を遂行しようとすると、次の瞬間俺の顔面に猿の蹴りが綺麗に入る。
「あはははは! 醜い、醜いはねぇあなた!」
「…………申し訳ありません、お嬢様」
避けようと思えば避けられるし殺そうと思えば簡単だ。
だが、俺には奴隷の首輪がついている。
しかも、ただの首輪じゃない。
もっとも強制力のある最上級の物だ。
貴族であればだれでも俺に命令することが可能の代物。
これで収まってくれればいいのだが…………いや、この顔は収まっていないな。
そう思う俺の目の前に、フーフーと怒りが爆発寸前のお嬢様がそこにはいた。
こんな事を初めて、ずっとやっていた理由は、きっと俺が泣きわめく事を期待していたのだと思うのだが…………こんな事など、もう俺にとって当たり前だ。
辛いことが日常、痛いことが日常、怖いことが日常。
もう恐怖の涙なんて出し切った、泣き言も、反抗意思も、もう俺の中にあるのは、道具としてどう生きるかしか考えていない……期待も、希望もとっくの昔に捨てた。
俺は下を向いたまま、ずっと頭を下げて跪いていた。
きっとそれも気に入らないんだろうが、俺は道具だ。
「分かったは、良いわよ。許してあげる…………その代わりもっと光栄な仕事をあなたに与えてあげるは! 感謝しなさい!」
「はっ、とても光栄です。誠にありがとうございます」
そう言って俺をお嬢様は家の裏庭にある、訓練場に連れて行く。
恐らく、俺を魔法か何かの的にして遊ぶのだろう。
なぜ魔法かわかるのかというとお嬢様のステータスだ。
名前 エリー・フォン・キールヴァイン
種族 人間
スキル
誘惑 洗脳 幻術 回復魔法 炎中級魔法
こんな、ステータスなのだが。
スキルの誘惑や洗脳は、このお嬢様を少しでも綺麗だとか凄いだとか思ってしまえば効果が発揮されるものだ。
幻術も、自分より弱い者にはあまり効果が期待できない。
だから消去法で、炎魔法で俺を甚振りたいのだろう。
正直熱いのも痛いのも嫌だから、防ぎたいのが正直なところなんだが無理だろうな。
はぁ、面倒くさいったらありゃしない。
予想が当たったらしく、お嬢様に言われ五メートルぐらい離れ、指定された場所まで行く。
その場所で、何も構えず、何があっても動くなと命令された。
魔法陣の構築を確認して俺も覚悟を決める。
「さぁ、私の魔法の的となることを感謝しなさい。ファイアーショット!」
そう言って、お嬢様の左右に三個ずつのボーリングの球ぐらいある火球が一斉に飛んでくる。
勿論俺は動かない、いや、動けない。
俺の体に着弾して少し爆発するようにドンドンと音をたてて当たっていく。
意外とびっくりしたのが、今の俺の体は相当頑丈なのか、あんまり効いていないということだ。
まぁでも、ここから動くことが出来ないし、痛いものは痛いんだけどな。
そこからは、とにかく魔力が尽きては魔力回復のポーションを飲んで打ち続ける。
八つ当たりのように、魔法を俺に向かって放ち続け、笑っているのか、怒っているのかは分からないが、とにかく打っていた。
それから日が傾きかけている頃に執事がやってきて、夕食の時間だと言うと、何も言わず睨む
はぁ、一々怒ってて疲れないのかね。
部屋に戻れという命令をしてから、使用人を引き連れて帰っていった今日も元気なクソお嬢様。
ずっとエンドレスで当てられ続けられたこともあって、正直かなり服がまずいことになっていた、裸ってことではないが、意外と燃えていた。
はぁ、あのお嬢様はマジで殺す気で打っていなかったか?
子供にしては強いほうなのかもしれないな。
俺も帰って、飯食って寝るか…………今日はもう疲れた。
そんな中ある事に気づく……この訓練場に一人気配が消えていないことに気付いた。
俺のことをずっと見ている、執事の一人だ。
ただ俺を静かに見ている、正直なんで見ているのかはさっぱりわからん。
なんなんだか……変なやつだ。
今度は俺が痛めつけてやろうか? ってか?
面倒だしさっさと帰ろう。
俺は一礼して、この場を立ち去ろうとする…………が執事から不意に声をかけられる。
「待ちなさい“ 後輩”。私はあなたを決して傷つけたりしませんよ。リヴァイアサンに選ばれし少年」
「…………え? 今なんて…………」
「まぁ、何故と聞きたいかと思いますが、それは後にしましょう。後ほど、夕食を持ってきた際に、お話をさせていただきます」
そう言って、驚いている俺を少し面白そうに見てから屋敷のほうに戻っていった。
何の事なのか、正直分かっていない。
というか、分からない…………なんであの人は知っているんだ?
だけど、後輩…………しかも、リヴァイアサンまで……。
あの執事一体何者なんだ?