奴隷になった日⑤
王城で風竜の精鋭軍、軍団長ビンケットに、三か月後の戦で一人で殲滅しろと言われてから、すぐに地下に連れ戻された。
勿論逃げる兵士などは、精鋭軍が掃討するらしいが、それ以外は殲滅しろと言われた。
予想もしていたし、そこまでびっくりはしなかったが、次の日から、いつもの日常に過激さが増した。
まず戦う相手が普通に強い者が多くなった。
それだけでなく、数に対して慣れさせるためにと、十人以上を相手にすることが多くなり、次第に数は増していく。
勿論その中には奴隷等もいたが、凶悪犯罪を犯した者、テロを起こし国家反逆を企てた者、暗殺者なども多く参加していた。
命令は、魔法しか使うなとか、武器も魔法もスキルも使うなとか、沢山の場面を想定とした完全なる兵器になるための殺し合いをさせられる。
たまに、ビンケットが数人の部下を引き連れて、俺を見に来ることがあり。
その時は、いつもより多く殺し合いをさせられることが多かった。
拷問も変わっていた、まず朝にギルがいつもの汚い容器に水とパンと冷たいスープを持ってくるのだが、少しの肉や皮なども秘密だと言って肉なんかをくれるようになったのだ。
初め俺は、これも何かの罠なんじゃないかと思ったが、我慢できずに食べていた。
そして、それを食べた後はいつもの拷問の開始だったのだが、いつもとは違い朝、ギルに何を渡されたのかと言われながら、拷問が始まった。
恐らく、秘密や情報を本当に話さないようにするためなんだろう。
勿論誘惑もされる。
例えば、話せば毎日肉は自由に食わせてやるとか、解放してやるとか。
正直信じれないとも思ったが、何度も話してしまいそうになった。
それから三か月毎日、俺はその拷問と殺し合いを耐えて戦場に向かうことになった。
場所は、どこかはわからないが、よく開かれた平原だ。
ここまでの道のりも、どういったところを通ったかも分からない。
理由は簡単だ、目隠しをされ、箱に詰められて現地まで連れてこられたからだ。
一つ分かってることがあるとするなら、俺の見ている方向に敵国の兵で埋め尽くされているという事。
対して、ここにいるのは、俺の少し後ろにビンケット率いる風竜の精鋭軍が控えている事と、俺の横に馬に乗っているビンケットがいる事だけだ。
「相手の数は、一万いる。そして貴様に一つの武器をくれてやる、リヴァイアサンの宝玉が作られたと同時に作られた、武器だ。お前にくれてやる。銘は、臥朧という物だ、うまく使え」
「ありががたく頂戴いたします」
渡された武器は、俺は歴史や漫画やゲームで何度も見た刀だった。
今は、命令されるまで何もするなと言われているから、鑑定したりをすればばれそうで見れないけど後で見ることが出来れば見てみよう。
そして、相手は一万人か…………正直もっと怖くなるものかと思ったけど。
なんかなぁ、そういう感情じゃないんだよな。
戦とはいえ外に出させてもらえるのなら、少しいいかもしれないと思っている自分がいるな。
ついに俺自身も壊れてしまったか、この糞どもみたいに落ちたのか?
どちらにしろ、もう俺は何の罪の無い人を殺している時点でゴミ以下だ。
準備できたのか、ビンケットが俺を下から上に何かを確認するように見た後に、俺に命令を出した。
「では命令だ、カリル。敵軍を殲滅し、敵の将の首を持って帰って来い」
「はい。分かりました」
よし、じゃぁ…………殺すか。
その言葉を聞いたと共に俺の体は勝手に走り出していた。
勿論さっき貰った刀、臥朧を鞘から抜き、左手に鞘を右手に刀身を手に全速力で敵軍の目の前まで走り続ける。
意外と距離があるため、魔法の構築を始めていた。
ビンケットが言うには、相手は魔人族という種族で、魔法戦が得意らしい。
だからまずは、懐に潜り込めればいいと、そして切り殺せと言っていた。
敵国、魔導王国ガイリアは俺の存在に、気づいたのか慌てて魔法構築をしている。
その隙を与えないために、俺は今構築している神級魔法と同時に、中級魔法を構築した。
何度も、何度もよく使っていた魔法だ。
人を殺すための魔法。
放った魔法は、『アイスロンド』俺の周囲に無数の氷の剣が出現し、対象に向かってまるで誰かが斬りつけているかのように、独りでに剣が躍っているよう見える、そんな魔法だ。
生き残るために作った、俺のオリジナル魔法。
魔法名は、糞爺に習ったのだが想像しやすいように決めておくのが大事らしい。
放った魔法は、敵軍を完全に翻弄していた。
たった一人で小さい子供が走ってきて、いきなり攻撃しようとしているのだ、誰でも簡単に対処なんてできないし、困惑するだろう。
恐らくビンケットは、それも計算に入れていたとは思う。
もう少しで、敵軍の目の前に着きそうなところで構築していた神級魔法が完成した。
俺は敵軍の中心に向かって、その魔法を発動させる。
神級魔法は、普通の魔法と違い固有魔法に近い。
何故か、そのスキルが現れてからは何故か、もう知っていたのだ。
その魔法を放てば、辺りは忽ち氷の地獄になるそんな魔法。
吹雪が吹き荒れ、時が止まったかのように辺りは、真っ白の世界に変わる
とにかく何でも氷漬けにする魔法で、ちょっとやそっとじゃ解けない。
ま、それだけじゃなくてもう一つの魔法も構築しているんだけど。
少し楽しみだな、本気で打つのは初めてなんだ。
これから沢山の命が無くなるというのに、ひどく落ち着いていた。
ただ、一つ…………殺す。
「神級魔法、コキュートス」
俺の背後に一匹の白い龍が現れ、指定した範囲に向かって突撃していく。
それは、優雅に川を泳いでいる魚のように向かう。
辺りの温度を下げ、白い雪が吹き始めて、違和感を感じているであろう敵兵。
だが、気づくときには遅かった。
敵国に向かってきていたはずの白い龍は、上空高く舞い上がり、全員が見上げていた。
美しい一体の龍…………それが牙をむく。
白い龍は声が聞こえない方向を上げ、吹雪を作り出しながら地面に向かって急降下。
最早諦めているのか、恐怖で足がすくんだのか、全員が逃げずそれを見ていた。
地面に遂にぶつかった瞬間に、周りの敵軍五千人がいた場所が完全に凍り、時間は完全に止まる。
パキパキという音を立てながら真っ白の、死の世界。
俺が放った魔法を見た魔導王国ガイリアの後方にまだ残っている兵士達は、動きが止まっていた。
俺は動きを止めることなく、凍った場所の中心に向かい、氷を完全に粉砕して、殲滅するためにもう一つの魔法を放つために動き出す。
それを見た敵軍の者たちはただ愕然と見ているだけ。
臥隴を天高く掲げて、気分が高揚していく。
「飲み込め、神級魔法ポセイドン」
発動した魔法は、俺を中心に津波のように大きな水が地面からあふれ出し、辺りにいる凍った兵士ともども粉砕しながら押し流していく。
全てを押し流しながら、渦のように中心に引きずり込んでいった。
暫くそれは続き、俺の目の前には放った魔法で出来た小さな湖が出来ていた。
ガイリアの兵士達は何が起きているのか分からないのか、分かりたくないのか、唖然と立っている。
次に起こるのは、全員の恐怖に染まった表情に、気を引き締め絶対殺すと決めたのであろう殺気。
どれも共通して言えるのは、子供に向けるような表情ではないという事だ。
だが、口々に俺を見て聞こえてくる言葉は…………。
『悪魔の子を殺せ』