奴隷になった日④
意識が途絶えてから目が覚めた場所。
そこは、いつもの何もない牢獄。
体を起こして周りを確認するが本当にいつもと変わらない。
安堵した。あれは夢だったのではないか、とも思った。
なぜなら自身の体には血も何もなく綺麗になっていたからだ。
両手を見つめ、あれはただの夢なんだと。
だが、その考えは甘かったと思い知らされる。
顔を上げた目の前には、夢であってほしかった事は非情にも切り捨てられた。
目の前には、俺が斬った少年の遺体が台座の上に置かれていたからだ。
「う、おえぇ…………く、くそ、くそ、くそ!!」
俺は、それを見た瞬間に涙が溢れた。
まだ、十歳の子供を自らの手で人生を奪ったのだ。
心の中は、ぐちゃぐちゃになっていく。
もう何も考えることが出来ない、いや、考えたくないと思った。
この国は腐っている、糞が!!
あぁぁあああ!
俺は、俺は…………人殺しだ…………。
泣き叫んでいる俺のところに一人の老人が牢獄の前で俺を見下ろしていた。
その後ろには三人の兵士が立ち。
全員同じように、不気味なほどに俺を見て笑っている。
「カリルよ貴様は俺のことを見るのは初めてだろうなぁ」
「誰だ…………誰なんだ!」
「ふむ、なるほど…………心は無事折れたようだな」
「は? おい、どういうことだ!?」
何を言っているんだこいつは……俺の心が折れたって。
なんだよ、無事にって。
まるでそれが狙いだったかのような…………。
「ふっ、まぁいい。貴様はこれから一年、この国のごみ共と闘ってもらうことになる。そして、勿論その中には実力者もいる。うまく生き残り、この国の道具として、精々頑張りたまえ」
そういった老人は俺の目の前から立ち去っていった。
俺は今の言葉が頭の中でループして流れている。
これから一年間、今日みたいなことを毎日行うと明言されたのだ。
そして今日はそのための準備だと遠回しに言っているようなものだ。
そ、そんな…………ただ、ただ俺は。
俺は、何がしたいんだ…………え?
いや、はは、頭が混乱して何も考えられないな。
そして入れ替わりのように、いつもの傭兵のギルが来る。
俺を見たギルは大声で笑っていた。
そして立てと命じられ、いつもの拷問の時間が始まる。
今日はいつもとは変わりしっかりと拷問器具を使ったものだった。
身体を椅子に固定され、手を乗せる台座があった。
その拷問は初めてのことで、あまりの痛さから何度も泣き叫ぶ。
爪をはがされ、治癒魔術で蘇生されを繰り返していく。
何度も気を失い、その度に鞭で何度も殴られたたき起こされた。
地獄のような時間が終わったと思うと、休憩を入れず移動させられる。
今度はいつもの実験室ではなく狭い一室に連れてこられ。
そこには、いつも実験室で俺を苦しめている糞爺がいた。
席に座らされ、その糞爺が人体の急所や魔物の弱点などの話が急に始まりだす。
俺はわけもわからず呆然としていると、後ろから傭兵のギルが俺をぶん殴り。
しっかり聞けと命令をし、また後ろのほうに座って俺を見張る。
そういって夜になるまで、みっちり唐突に始まった授業は続いた。
それが終わると、今度も休憩はなく移動が始まる。
もう何も、期待もしなくなった、何も考えることもない。
俺は、本当にただの道具になりかけていた。
そして、着いた場所は昨日少年を殺した闘技場。
そこには、新たに二人の首輪をつけた、中年ぐらいの男が立っていた。
右にいる男は槍を構え、左の男は、短剣を両手に構えている。
雰囲気的にも俺よりも実践豊富なんだろう。
二人とも、俺を睨みつけ殺す気満々、大人の殺気を直で受ける。
勿論、俺は何も知らなかったし、殺したくもない。
だが、考えても無駄だと頭の中から思考が離れないていた。
そして傭兵のギルから一言、そこの二人を殺せと命じられ。
俺は剣を手に取り、その二人を殺した。
また人を、しかも二人も殺し、今日で三人目だ。
殺した瞬間は…………覚えていない。
そのあとはまた牢獄に入れられ倒れるように眠りにつき。
朝になれば、すぐに蹴り起され、次の日も昨日と同じような内容から始まった。
次の日も次の日も、毎日毎日。
俺は、もう何も考えられなくなった…………いや、考えるのをやめた。
そんな毎日を過ごしているある日、いつもとは違い拷問部屋には連れていかれず。
恐らく地下なのだろう、どんどん階段を上り、兵士三人に連れられ初めて外に出させられた。
勿論、ここに来た時とは違い、目隠しもされずに。
しかも今日は何かあるのか、いつものボロボロ服ではなく。
身体を綺麗にされ、綺麗な服を着せられ連れ出された。
急になんだよ、この展開は。
でも、久しぶりに当たる太陽は、こんなに気持ちいんだな。
首輪がなかったらの話なんだけどな。
そして、俺は自分が王宮の地下にいたことが分かった。
理由は出てきた建物の目の前が、恐らく城の後ろ側だからだ。
少し呆けていた俺に、兵士が舌打ちをし命令を出す。
付いて来いと命令を受け、王宮の中に入っていった。
中に入ると周りの使用人や、兵士達が俺を汚物を見るかのように睨んでいる。
暫く歩き、城の一番端辺りにあるであろう、少し広めの部屋に入れと言われ。
入ってみると、そこにいたのは俺が初めて人を殺した日に会ったことのある人物がいた。
立ったままそいつを見ていると、重々しい雰囲気で口を開く。
だが、その顔には悪意に満ちていた。
「私の名前は、ビンケット・フォン・キールヴァインだ。風竜の精鋭軍の軍団長をしている。貴様をこれから、魔導王国ガイリアとの戦争に連れていき、敵軍を一人で殲滅してもらう。これは、すでに決定したことだ。戦は、今から三か月後だ。分かったな」
「…………はい。仰せのままに…………」
俺はその言葉を聞いた瞬間にびっくりも驚きもしなかった。
分かっていたからだ、自分が兵器として使われるということは。
ただし一つのことを除いては…………こいつは一人で、と言った。
つまり俺は、一人で戦場に駆り出されるわけだ。
いっそ、そこで死ねたら楽なのだろうか…………。