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奴隷になった日③

 意識が途切れてから、俺はなぜか海の中にいた。

 とても綺麗で、何処までも青く透き通っている。

 そして俺の心もどこか楽しくて、勢いよく自由にその海の中を泳いでいた。

 

 もし、こっちが現実だったなら俺はどんな幸せなことか。

 自由に世界を旅して、硬いパンや、冷えたスープやぬるい水じゃなくて。

 温かい肉を頬張って、冷たい水を飲みたい。

 

 俺が心地よく見ていた景色は次の瞬間、いつも見てきた景色に変わった。

 硬く冷たい床、ボロボロになっているベットとトイレ。

 いとも簡単に現実に連れ戻された。

 

 あぁ、あれは夢だったのか…………。

 そうだよな、そんな都合よく自由になれるわけがない…………俺はいつまでこうしてればいい。

 でも生きているということは、成功したのか?

 少し見てみるか。

 

 名前  カリル

 種族  龍人?  


スキル

 鑑定 改竄 思考加速 状態異常耐性 苦痛耐性 体力自動回復 忍耐 気配感知

 水操作 神級氷水魔法 龍眼 龍の逆鱗 自動魔力回復 神龍化

 

 な、なんだこれ、龍人?

 このスキルは俺のじゃないよな?

そもそもこんなの持っていなかったし。

 

もしかして、リヴァイアサンのスキルか?

そう考えるほうが妥当か。

 

 だとしたら、あの実験は成功だったんだろうな。

 現に俺の魔力量が爆発的に伸びているのがわかる。

 

 そう、俺自身も戦いの中に見つけたことなのだが魔力を段々視認できるようになっていた。

 上手く操れば体の強化なんかもする事はできる。

 簡単に言えば、色々できる万能な力だ。

 

 それよりなんで生きてんだろう…………もういっそ殺してくれてもいいじゃないか。

 あのどこまでも続く海のように、俺も自由に生きたい。

 

 それより、あいつらはいったい何が目的なんだ? 

ここまで、どんどん俺を強くしてどうしたいんだ?


暫く何も考えることが出来なかった。

そして予想通り、闘技場まで連れていかれる。

何をするという明言はされていないが、気配感知で分かっていた。


闘技場に着き武器を持ち気配のするほうを見てみる。

そこにいたのは首輪をつけた奴隷の人間だ。

十歳ぐらいの男の子だろう震えながらも剣を構えている。

 

なんでこんなに小さい子供と闘う必要があるんだ?

取り敢えず思考加速を使ってみたが、俺に殺しをしてのメリットは、そもそも今までの生活の意味…………


いや…………そうだよ、そうだよ!

今の今まで、魔物との戦いや、毒物に対する実験や拷問。

これに対する意味を一度も考えてこなかったが。


俺の予想が正しければ、俺はこの国の兵器として育てられている?

六歳の俺が? いや、ないと楽観視するよりはあると考えたほうがいいだろう。

魔物との戦いも、戦闘経験を増やすため。

毒物は、俺が暗殺や毒物が塗ってある武具で簡単には殺されないためか?


拷問はもし捕まったとしても、この国の情報を少しでも漏らさないため。

地下で隔離されているのがいい証拠だ。

新種の毒物の薬品は、自国の戦力増強のためだろうな。

どんなに強くても、絶対に命令を聞かなければならない奴隷の首輪。


極めつけは、リヴァイアサンの宝玉…………。

仮説だが、筋は通っている気がする。

つまり次に俺がさせられる事は誰かとの殺し合いか?


相手は死刑囚か無期懲役の人間、後は奴隷か…………。

俺を殺せば自由になれるという契約でもすれば、本気で殺しに来るだろう。

どうする? 気づいたところで、俺に何ができる?


命令に背こうとしても勝手に体が動く、俺はどうすることもできない。

くそ、くそ、くそ、くそ!!!!


 俺は闘技場に入る前に、ある命令を受けていた。

闘技場で開始の合図が出たら。

首輪をつけた人間の首を落とせ。


俺は命令に背くことはができない、俺がどんなに止めようとしても。

身体が勝手に動くからだ、どんなに泣き叫ぼうが、苦しかろうが関係ない。


こんなに小さい子が生きるために、俺と殺しあう。

 なんで…………なんで! ここまでしなきゃダメなのかよ!

くそ! どうにかして、助けらる方法を考えろ!

 

 自分が命令された以上、それに逆らうことは出来ない。

 それがわかっていても頭では考えずにはいられなかった。

 俺の気持ちなど知る由もない、男は無慈悲にも開始の合図をする。

 

「始め!」

 

 その合図が聞こえた瞬間俺の体はその少年に向かって一直線に走り出していた。

 必死に止めようと身体に力を入れようとするが、身体が止まらない。

 

 やばい、やばい、やばいやばい!

 体が止められない!

くそ、剣を抜くなぁ!!!!

 

 自身の腰から剣を抜き、少年の首に向けて水平に剣を引こうとしている。

 身体に本気で力を入れても、魔力を練っても、ピクリとも動かすことが出来ないでいた。

 だが、声を出すことはできていた。

 

必死に止まれと叫んでいる自分の声が闘技場を木霊する。

 少年も異常さに気付いたのか、俺から必死に逃げていた。

 

 くそ、何か方法は、無いのか!?

 殺したくない、絶対に殺したくない!

 

 俺が必死に止めようとしているときに闘技場の通路から。

 一人の男が、声を発した。

 

 「カリル命令だ、スキルも魔法もすべて使って、そいつの首を落とせ」

 

 な、う、嘘だろ!

 身体が勝手に、おい、待て!

 

 「アイス・グランド」

 

 俺は、魔法の名前を口にした瞬間。

 この闘技場の中を全て完全に凍らせていた。

 パキっという音が、闘技場の中で木霊のように鳴り響く。

少年の首から上は凍らせないように調整しているのか、身動きが取れないような状況だった。

 

少年は諦めたように涙を流しながら両親に謝っている。

 俺は声も発することも出来なかった、まるで何かに押さえつけられているように、自我はなくなっていた。

 ただ映像を見ているかのような感覚。

 

そしてその映像には少年の首を剣が通り抜けていき、首が落とされた。

 しっかりと手に伝わってくる嫌な感触が、思考加速によってゆっくりと伝わる。

 俺の剣は、なんの抵抗もせずに首を通り抜けていく感触。

 

それを確認した後に、俺の自我は戻ってきた。

目の前には、血の雨が降り首だけとなった少年の頭が俺の足元に落ちている。

 

 この首を、俺が…………。

 

 「はぁはぁはぁはぁはぁ、うわあああぁぁぁぁぁああああ!!!!」


 俺が叫んだ瞬間に俺の心はぷつんと音を立てて壊れた。

 それと同時に、俺はまた意識が切れた。

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