奴隷になった日
「おい、いつまで寝てんだ! この糞ゴミが!」
「ぐふっ…………す、すみません。今起きます」
罵倒をして、寝ている俺の腹に思いっきり蹴りを入れているのは、少し小汚い感じの男で。
皮のような鎧をつけている、筋肉ムキムキな顎髭を生やした傭兵の男だ。
そして、今の俺は、帝国の地下で奴隷として管理され実験などをされている。
何の実験かは、俺自身もわからない。
そんなどうしようもない、道具として使われている日々を過ごしていると。
どうしてこうなったのかと、いつも考えて思い出す。
あれは糞みたいな女神から洗礼を受ける日にまで遡る。
一年前 俺 5歳
俺はこの世界に転生して、昨日で五歳になった。
強さに関しては正直弱いままで相変らず変わらなかった。
だが、俺は意外と楽しく生活している。
大きくなるにつれて、自分の容姿もはっきりしてきて、真っ黒の髪に赤い瞳。
目鼻立ちもしっかりしており、普通に美形でちょっとナルシスト予備軍になりそう。
正直前世が、普通だったことからめちゃくちゃ嬉しい。
「息子よ、お前には期待しているぞ。我がミハイル家にふさわしい男になり、しっかり我が息子として、公爵家の人間にふさわしい人間になれ」
「はい、お父様! 必ずご期待に応えて見せます!」
俺は今ミハイル領
ミューヘル大都市にある教会に来ていた。
俺の目の前には、この街の神官が大きい水晶を台座に置いた場所の横で、待っている。
期待を込めた目で力強く声をかけてきたのは。
ミハイル領現当主、ガイル・フォン・ミハイル
俺、カリルの父親だ。
公爵であり精鋭軍『火竜』の軍団長でもある。
このグランキー帝国で王族に次ぐ権力を持っている男。
容姿は軍団長といわれる男に相応しく、筋骨隆々で正直顔はめちゃくちゃ怖い。
真っ赤な髪をオールバックに整えていて、きりっとした目を際立たせている。
その隣には、真っ白な髪を綺麗に結んでいる、とても可憐な女性が座って。
俺のことを静かに見ている、俺の母親だ。
名前は、リルアナ・フォン・ミハイル。
いつも静かであまり喋らないためよく分からない人だ。
ただ昔は他国の王族ってことだけは聞いたことがある。
どこの王国だったかなぁ…………うん、忘れた。
まぁもう関係ないとは聞いたし、どうでもいいか!
そして今から神による祝福を受けることになっている。
この国はどうやらアリエルという神が信仰されているらしい。
正直神様を信仰する気はないけれど、力欲しいです!
チートが欲しいです!
因みに、その神が司るのは、慈愛と正義。
俺も加護でも貰えたら、もう慈愛と正義の限り信仰しようかなぁ…………いや、するね!
しちゃうね!
因みにその神から祝福をもらった後にスキルが公開されるらしい。
俺のスキルは最初からついていたから、どうなるかは分からんが……。
ダメってことがあるのだろうか。
俺の強さは、もう前世でもそうだけど、お世辞にも強いという事もなく。
何度か剣の稽古をガイルにつけってもらったことがあるが、その時は使用人も含めて苦笑いしながら、憐みの目で見られる程である。
正直、普通に同年代の子供に負ける自信が俺にはある!
はぁしかし、ただの儀式だと思っているが、徐々に近づいてくるとわくわくの気持ちが!
確か神の祝福で、剣聖のスキルを貰った者もいるとか使用人が話していたし。
そんなの…………期待せずにはいられないよな!!
神官たちも準備ができたのか、俺の準備ができるのを静かに待っている。
神聖な場所と言われてきて、あまりピンとこなかったが、この瞬間になってようやくわかってきた。
確かに空気がとても澄んでいて深い森の中にいるときの様な、そんなどこか心が清々しい。
しっかりと深呼吸をして、準備が出来たと示すように少し前に出る。
「カリル・フォン・ミハイル、ここに」
「はい!」
威厳のある声で呼ばれ、女神像がある祭壇のほうまで階段を上っていく。
大神官の目の前まで向かい、一礼した後に片膝をつく。
両手を固く組み合わせ、祈るように目を閉じる。
そこからは、大神官が俺に手をかざし口上を述べだす。
正直俺には意味が分からんから半部以上は聞いていない。
口上も終わり、暫くすると。
いきなり俺の目の前が真っ白な何もない空間に連れてこられていた。
後ろから気配があるのが分かり振り返ってみると。
そこには空中に手足を固定されているように、磔にされている女の人がいた。
青い髪をして手や足の甲には杭のようなもので刺され鎖につながれている。
暫く呆然としながら、その謎の女の人を見ていると。
ぷつんと切れそうなか細い声で俺に何かを言っていた。
「ん? な、なんて言っているんですか?」
「ご…………ごめんなさい…………カリル」
「え? なんで…………」
瞬間、後ろから誰かに引っ張られるように現実に引き戻される。
気が付くとさっきまで自分がいた教会で神官の目の前だった。
戻ってこれた、のか?
あの女の人はいったい誰だったんだろうか…………。
ん? そういえば、なんか回りが騒がしいな。
周りを見渡すと儀式を始める前とは大分雰囲気が変わり。
父親は、頭を抱えて下を向いていて、母親は俺を汚物を見るかのように見ていた。
周りの人間も、そういった感じだ。
すると、神官が震えながら激高しながら口を開いた。
「き、貴様! この糞餓鬼がぁ!! 衛兵、この反逆者をとらえよ!」
え? 反逆者って俺の事!?
いったい何が起きているんだ? 反逆者ってどういうことだよ!
おい母様のあの顔は息子に向けるような顔じゃないだろ……。
俺は、ただここに洗礼を受けてきただけなのに、いったい何がどうなっているんだ!?
衛兵が俺を押さえつけ、武器を構えて俺に警戒している。
その神官が俺を見下ろしながら口を開き、予想していなかったようなことを話し出す。
「神の言葉により。カリル・フォン・ミハイルから貴族位を剥奪。神の慈悲により、死刑にはせずに、悪魔の子としてグランキー帝国の王族専用の奴隷にする。だが、殺すことは、神の意志に反するため、有用に使うこと」
「は? いや、何言って」
「黙れ、悪魔の子が!!」
俺めがけて、衛兵の一人が顔面に蹴りを入れる。
正直本当に何が起きているのか、全く分からないが一つ分かったことは。
親も周りの人間も、もう俺を人を見るような目でいないことだけが分かる。
この日俺は、クッソたれの神によって両親から見放され、この国道具にさせられた。
どんな命令でも聞かせられる。
最上級の奴隷の首輪をはめられて。