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襲撃の果てに

残酷描写があります。

ご注意ください。

「…………は?」


 言われた言葉の意味を理解するよりも先に魑魅魍魎たちが一斉に襲い掛かってきた。


 遅れて……、先ほどの言葉の意味を理解する。


「冗談じゃありません!!」


 その言葉とともに思いっきり、神力を放出して、近付いた魑魅魍魎たちを祓う。


 あの「オニ」。

 妖艶な顔して、なんて、言葉を言うのか!?

 いや、妖艶な顔をしているからこそなのか?


 わたしは確かにもうすぐ15歳だ。

 だから、今の言葉の意味も分かってしまう。


 特に、この辺りについては曾祖母自らが、しっかり教えてくれたから。


 邪心を持った人間たちに騙されないように、「簡単に男に身を任せるな」と。


 「八家」の巫女たちは、同じく「八家」に生まれた殿方以外との間に子を成す行為……、交わることを禁じられている。


 理由としては、分かりやすいものだった。

 「神力」を備えていない男との交わりは、巫女の「神力」が著しく落ちてしまうのだ。


 だから、「八家」は割と遠戚が多いと聞いていた。


 つまり……、その……わたしにえっちなことをして、巫女の価値……具体的には「神力」を堕とそうってことだ。


 なんて卑劣なヤツなのだろう。


 しかも、自分で手を下さずに、手下(?)の魑魅魍魎たちにさせようって腹がよろしくない!!


 だけど……、わたしの「神力」は本当に大したことがない。


 その力の強さも、正確さも、そして……、使える回数も。


「ああっ!!」

 あっさりと、力尽き、そのまま、手足を拘束され、無様にも吊り上げられた。


 そして……、わたしの地獄はここから始まる。


『ああ、先の巫女も見るか?』


 その綺麗な「オニ」は――――。


『お前の孫か、曾孫だろう?』


 形の良い唇で孤を描いて――――。


 わたしの腹に()()を置いた。


 目が合った。


 間があった。


 そこには


 今朝言葉を交わしたはずの


 白髪だけの女性の


 顔だけが


 あった。


 あるべきものはない。


 その首から下はなかった。


 わたしは声にならない叫び声を上げる。


 その勢いで、空気が震え、手足の拘束が少しだけたわんだけど、そこで終わり。


 半人前の中継ぎに過ぎない巫女の血を引いているだけの女にできることなど何もない。


 手足を縛られたまま、魑魅魍魎たちによってその身体は切り刻まれていく。


 まるで嬲るように。


 全身を(ねぶ)るように。


 人としての尊厳を弄ぶかのように。


 すぐに穢すつもりはないらしい。


 心を完全に折ろうというのだろう。


 器用にも、この腹に乗った塊は落ちない。


 もしかしたら、何かの力が働いているのかもしれないが、そんなことを考える余裕すら既になかった。


 ただ見開いたままにされているその目だけが、目を閉じても尚、わたしの瞼に焼き付いている。


『遊びは終わりだ』


 そのたった一言で、魑魅魍魎たちの動きが止まる。


 「オニ」が、魑魅魍魎たちを従えるというのは本当なのか……とぼんやりした思考で思った。


『そろそろ堕としてやれ』


 その言葉の意味を理解して身を捩ろうとするが、完全に固定化された両手足は動かすこともできない。


 舌の長い魑魅魍魎の一体が、既に制服のほとんどが切り刻まれ、露出しているわたしの足を(ねぶ)った。


 それが合図だったのか、他の魑魅魍魎たちもその動きを変える。

 それらから与えられる感覚の恐ろしさにわたしの全身が総毛立った。


 勿論、悦びからではない。


 歯を剥き出し、舌なめずりをして迫ってくる魑魅魍魎たちから文字通り、いつ食われるかも分からない恐怖が傍にあって、目の前に既に殺された身内の塊が置かれたままというそんな異常な状態で、いつまでも平気な顔をしていられるほど、わたしの心が強くなかっただけ。


 歯の根が合わない。


 気がおかしくなる。


 いっそ、このまま狂えればいいのに。


 だが、ギリギリのところでわたしにも矜持があったのかもしれない。


 このまま、魑魅魍魎に純潔を散らされた上、無惨にも食われることが分かっているのに、今も生温く、魚が腐ったような生臭い息が自分の顔や身体にかかっているのに、それでも、わたしは正気を保っている。


 ―――― ごめんなさい


 もっとちゃんと話をしておけば良かった


 ―――― ごめんなさい


 もっとわたしに力があれば助かった


 ―――― ごめんなさい


 弱いわたしは誰一人の仇も討てない


 ―――― ごめんなさい


 まだ小さい妹に全てを押し付け逃がしてしまった


 ―――― ごめんなさい


 何も関係ない人まで巻き込んでしまった


 ―――― ごめんなさい


 繰り返される悔恨の念。


 だけど、それはわたしの中にしか存在しない話。


『貫け』


 現実では、無情な命が繰り出され……。


 わたしは足の付け根から全身を貫かれる痛みと共に絶命することになる―――――


















―――――― はずだった。


「あれ?」

 でも、痛みはなかった。


 初めては凄く痛いって聞いてたけど違うの?

 もしかして、あまりにも痛すぎて感覚も吹っ飛んだ?

 

 しかも、先ほどまでの両手足を拘束されている感はなく、それどころか足は自由気ままにぶらぶらしていた。


 そして、お腹には何かを乗せられているというよりも、押さえつけられているような圧迫感。


 さらに、先ほどまでの血生臭く湿った空気はなく、寒すぎる風が頬に当たり続けていることだけは分かる。


 その不可解さに思い切って目を開けてみると、最初に目に入ったのは……高速移動する地面。


 だが……。

「まだ目を閉じてろ」


 低い声にそう促され、素直に目を閉じる。


 ……いや、待て?!


「ちょっ!?」

「死にたくなければ暴れるな!!」


 そう一括されて、口を閉じる。


「魑魅魍魎の血が目や口に入ると障害を起こすことがある。今のオレに浄化の(すべ)はない」


 それは知っている。


 でも、この状況が分からない。


 あの一瞬で分かったことは……、わたしがこの声の主によってどこかに運ばれていることだけ。


 それも高速で……。

 でも、口を開くなと言われた。


 それならば、仕方ない。


 せめて、「身隠し」の術を使うと……。

「お?」

 近くで聞こえる声は驚いたようだった。


「すっげ~、()り放題じゃん」


 そんな物騒な言葉にあるのは喜びの色。


 すぐにその変化が分かるのも結構、びっくりだけど、それだけ魑魅魍魎にまだ囲まれているってこと?


 確かに、時折、お腹に引っ張られる感触がある。

 恐らく、彼が右腕を動かして、左肩が引っ張られているのだろう。


「15分」

「あ?」

「悪いけど、15分しか持ちません」

「ああ、なるほど。じゃあ、とっとととんずらすっか~」

 わたしの端的な言葉にどこか呑気な声で返答する。


 さらに速度が上げられた気がした。

 だけど、状況が分からないままだ。


 先ほど視界に入った状態から、恐らくは肩に載せて走ってくれているのだと思う。

 空を飛んでいるような感じはなかった。

 それにしては地面が近すぎたから。


 でも、仮にも女一人を担げる筋力って普通の人間ではない気がする。

 そして、多分、背中に何かかけられている。


 まあ、裸に近い状態だっただろうからね。


 材質は……、よく分からない。


 背中に当たっている感じはツルツルとしたナイロン製っぽいけれど、頬に時々当たるのはちょっと固いなにかだ。


 「魑魅魍魎の血」という単語から、少なくとも、魑魅魍魎に対抗する得物を持ち合わせているようだ。


 つまり……、わたしは命も純潔も同時に助けられたらしい。


 でも、あの状況で?


 魑魅魍魎に囲まれ、その傍に「オニ」までいたのに!?

 どういうこと?


 そんな芸当、他の「八家」の巫女にできるもの?


 しかも、声とこの肩っぽい部分から察するに、この人は男だ。

 殿方だ。

 異性だ。


 ……助けられた時、状況的に結構、アレな格好だった気がするけど、それを幸い、気にした様子もない。


 何より、見知らぬ裸の女一人を助けに入ることは、あの魑魅魍魎の集団に身を踊らせる以外の選択肢がなかったはずだ。


 どんなに女好きでも対価としては釣り合わない……はず?


 いやいやいや? それだけわたしの艶めかしい肢体が魅力的だった?


 どんな変態だ?


 あの時のわたしは、ほぼ、魑魅魍魎から剥かれて、腹に老女の首をのっけてさらに甚振られているような状態だった。


 それで平然としているこの人は何者!?


 どれぐらいそうしていただろうか?


「諦めてくれたか」

「え……?」

「結構、引き離したからな。でも、警戒はしておくか」


 そう言いながら、わたしは地面に下ろされた。


「あっと……」


 そして、気まずそうに顔を逸らされる。


 わたしの状態が全裸だったからだろう。


 流石に露骨にジロジロ観察されても困るので有難かった。

 そして、背中に掛けられていたのは黒い学ランだったようだ。


 わたしはそれで、胸元を押さえ、なんとか自分の身体を隠す。

 まあ、後ろは丸見えだけど、仕方ない。


 見ているとしても防犯カメラぐらいであることを祈ろう。

 ……記録されるのもどうなのかと思うけれど。


 そして、この殿方にも見覚えがあった。


 確か……。

朝日(あさひ)はどうしましたか!?」


 先ほど、妹の朝日を託した相手だったから。


「ああ、あんたの連れていた子は保護したよ。安全な所にいる」

「よ、良かったです~~~~」


 わたしはへなへなと座り込んだ。


「お、おい!?」

「あ、朝日まで死んだら、わたし……、本当にもう、一人になってしまいます……」


 これまで張り詰めていたモノが一気に切れたのだと思う。


 そしてわたしは、辛うじて留めていた意識を手放し……、その場に倒れたのだった。

とりあえず、一区切り。

次の投稿まで間が空きます。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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