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そのアカツキに光差すまで【投稿休止中】  作者: 岩切 真裕
【第壱章】

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13/19

生きるための理由

「結論から言うと、あの屋敷の中に、生きている人間はもういない」

「それは、そうでしょうね」


 それは、あまりにも分かりやすい結論だった。


 あんな魑魅魍魎たちの集団による襲撃の中、生き残るというのは無理だろう。


 10体、20体の話ではなかった。

 わたしを囲んだ魑魅魍魎たちだけでも、30くらいはいた気がする。


 下手すれば……50は越えていてもそこに驚きはない。


「だが……襲撃時、屋敷にいても、生き延びた神人(じにん)たちがいたようだ」

「え!?」


 あの襲撃の中にあって……生き延びた?


「『八幡』の先々々代巫女である鶴様に逃がされた者たちもいたらしい」

「そんな……っ!!」


 思わず叫んでしまった。


「嬉しくないのか?」

「それは、嬉しいのですが……」


 それでも、心のどこかで「どうして?」という気持ちがある。


 何故、その生き延びた人たちは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。


「誰もが阿須那と同じだと思うなよ? 人間、死ぬのが怖い方が普通なんだ」

「それも……分かっています」


 わたしだって死にたかったわけではない。


 それでも……朝日のために……と思っていたことは事実だ。


 だけど、朝日が実の妹ではなく、未来の「八幡の巫女」でもなく、性別すら偽られていたと知った今……。


「自分が、これまで、何のために生きてきたかが分からなくなりそうで……」


 あの曾祖母は「朝日」のために生きろとわたしを育てた。


 わたしに伝える「八幡の巫女」としての知識は、全て、あの妹へ引き継ぐためだと。


 でも……それらの全ては意味がないものだと悟ってしまった後、今までのように生きていけるとは思えなかった。


「そう難しく考える必要もないと思うが……」

「生きるための目標が突然、消失してしまったのです。悲観的にもなりますよ」

「生きるための目標ねえ……」


 八雲さまは大袈裟だと思っているのだろう。


 当然だ。

 生きるための理由を、他者に委ねるのはおかしいと自分でも思う。


 でも、そうしてこれまで生きてきたのに、いきなりそれを変えることなどできるほど、わたしは器用な人間ではない。


 尤も、生きるための理由は新たにあるのだ。


 「八幡の巫女」の血を引く女は、現状、わたししかいなくなった。


 あの「朝日」が仮に、ありえないとは思うけど、わたしのいとこだったとしても、男性である以上、「八幡の巫女」にはなれないのだ。


 だから、わたしは今日から「八幡の巫女」として生きる。

 そして「八幡の巫女」として、次世代を残した後、「八幡の巫女」として死ぬ。


 ただそれだけのことなのに……。


「ああ、こうすればいい」


 八雲さまは指を鳴らす。


「阿須那は、()()()()()()()()()

「え……?」


 何を言われたか、分からなかった。


 八雲さまの顔も声も、あまりにも変わらなかったから。


「『八幡の巫女』としてではなく、オレのために生きろ」

「それは……一体……?」


 自分の声が震えていることが分かる。


「生き方なんて、いきなりは変えられない。だけど、オレと一緒に頑張ることならできるだろう? 生きることを諦めるな。簡単に死を選ぶな。オレのために死に物狂いで生きろ」

「そんな簡単に……」

「簡単じゃない。生きることは難しいことだ」


 八雲さまはそう言う。


「だから、阿須那はオレのために生きろ。それを新たな目標としてくれ」


 それもごく自然に。

 それが、さも当然のことのように。


「八雲さまは、なかなか無茶を言われますね」


 思わず笑っていた。


「誰かのために生きるってちょっとした浪漫じゃないか?」

「確かに」


 実際、わたしは朝日のために生きてきた。


 その対象が変わるだけの話だ。

 そして、その対象はわたしにとって約3年後の約束相手ともなる。


 どこかのお菓子のキャッチコピーのように、一粒で二度美味しいというやつではないだろうか?


「いきなりは無理ですが、思考改革、頑張らせていただきます」


 わたしは両拳を握った。


「それで、その生き延びた方々はどうされていますか?」

「今は警察軍に厄介になっている」

「……保護されたと言うことですね」


 警察軍にご厄介になるという言葉だけ聞くと、あまり良くはない気がする。


「事情聴取だな」

「事情、聴取?」

「念のため、魑魅魍魎たちを手引きしたヤツがいないかの確認だ。もしかしたら、『オニ』が紛れていても、今後の対応に響くからな」

「『オニ』が……」


 自分の中の何かが粟立った気がした。


 あの白銀の髪を持った「オニ」。

 無機質な印象を受けた、あの綺麗な「オニ」はどうなったのだろうか?


「悪いけど、あの状況では、阿須那を連れて逃げるのが精いっぱいで、オレにはどうにもできなかったからな」

「それは仕方ないです」


 寧ろ、あんな絶望的な状況だったというのに、捉えられていたわたしを連れて逃げられただけでも凄いことだ。


 流石、「石上」家の人間だと思う。


「だからもし、あの魑魅魍魎たちの中に『オニ』がいたとしても、オレには分からなかった」

「そうなのですか?」


 あの白銀の髪を持った「オニ」は、あんなにも目立っていたのに?


「基本的に『オニ』は魑魅魍魎たちの中に紛れて、擬態しているらしいからな。人間の言葉を話すのもいるらしいが、命令を下す時は、魑魅魍魎たちの言葉を口にしていると言われている」

「…………え?」


 わたしは、あの時、白銀の髪を持った隠形を「オニ」だと思った。


 実際、魑魅魍魎たちを引き連れ、それらに対して、命令もしていたところを見たのだ。


 でも……それは本当に人の言葉を話していたか……と言われたら……?


 いいえ、よく思い出して。


 あれは本当に人の声……だった?


「や、八雲さま……」

「どうした?」

「わたしが……あの魑魅魍魎たちの中から『オニ』を見分けていたと言ったら……信じてくださいますか?」


 そんなわたしの言葉に……八雲さまの瞳は一瞬だけ、揺らいだが……。


「信じる」


 そう言い切ってくれた。


「では、その言葉を聞きとったと言ったら?」

「信じる」


 今度は迷いなく、口にした。


「それは……何故?」


 何の根拠もない話だ。


 一人の「八幡の巫女」の血を引く女が、魑魅魍魎たちの集団に囲まれた。


 だが、それだけで、信じられるかと言えば別の話だ。


 寧ろ、あんな状況だったために気が触れたと思われてもおかしくはないだろう。


 それを、何故、この人は信じると言い切れるのか?


「阿須那がそんな嘘を吐く理由がない」


 それは「八幡の巫女」としてではなく、「八幡阿須那」を信じた言葉だった。


「念のため……どんな『オニ』だったかを聞いても良いか?」

「はい。浅葱の袴に紺袍の装束を身に着け、白銀の髪で、暗闇でも光る赤い月のような瞳を持っていて……」


 あの時のことを思い出すのは怖い。


 でも、これは多分、大事なことだ。


「浅葱の袴に紺袍の装束……?」

「そして、凄く……この世の物とは思えないほど、綺麗で妖艶な男性でした」


 あの屋敷の門の前に立っていた「オニ」を思い出す。


 まるで、人間のような立ち姿だった。


 薄暗くなったあの場所で、魑魅魍魎たちに囲まれ、赤い瞳が光っていなければ、人間と見間違ってもおかしくないほどに。


「オレが、あの場所に行った時、阿須那を捉え、囲んでいた全ての魑魅魍魎は、黒い靄のようにしか見えなかったぞ。その銀髪の男なんてどこにも……()()()()()

「…………え?」


 黒い……靄……?


「だけど……その姿と状況から……その……酷い目に遭っていることだけは理解したから、阿須那の両手足にあった靄だけなんとか叩き切って……」

「八雲さまには……あの色とりどりの魑魅魍魎たちは……見えていなかった?」

「色とりどりだったのか!?」

「はい。あの場にいた魑魅魍魎たちは、青や緑、赤や紫など、フルカラーでした」


 一番多い色合いは桃色だったと思う。


 八雲さまが「フルカラー」と呟いている。


「でも……どういうことでしょう?」


 恐怖から、魑魅魍魎たちに色を付けてしまった?


 でも、その恐怖を与えられる前から、わたしは魑魅魍魎たちがそう見えていた気がする。


「考えられるのは、阿須那の目が……魑魅魍魎たちを見極められる眼だということだ」

「魑魅魍魎たちを見極める眼?」

「それが『八幡の巫女』としての能力なのか、阿須那自身の能力かは分からないが……」


 言われてみれば、わたしは魑魅魍魎たちを見るのは初めてではなかった。


 でも……あんなにはっきりと見たのは初めてだったのだ。

 以前、見た時は、八雲さまが言うように、黒くてよく分からない存在だったのに。


 それはどうして?


 分からない。


 でも、考えなければいけないことだと思って、わたしは少ない知識を一生懸命引っ張り出すのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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