後にアナウンサー、語る
吹雪のために視界が全く効かず、アナウンサーも実況に困ってしまう状況に陥ったノベルライターステークスは、写真判定の末に8番のザスーパーバトルが1着となった。
ハナ差の2着には、トランクアビロードが入り、3着はチョウゼツカワイイとなった。
以下、4着はファイアオブブレス、5着リュウギーノルカ、6着リガイン、7着トランクシオン、8着ユーアーザギターで確定した。
このレースはその日の競馬番組の中でも話題になっていた。
「いやー、山中競馬場のノベルライターステークス、大変なレースになってしまいましたねえ。」
「乗っている騎手の人達はさぞ怖かったでしょうね。」
「確かに怖かったと思います。これではこの後のレースは中止になるかもしれないですね。」
「まあ、どうなるかは、主催者の判断にゆだねられますが。」
MCの人達は関西のレースが発走直前になるまで、この話題でもちきりだった。
(なお、後に番組内で山中競馬場の第11、12レースの中止が発表されました。)
このノベルライターステークスの件はたちまちネット上でも話題となり、「競馬 見えない」といったようなワードで取り上げられていた。
そして動画を見た大勢の人達の笑いを誘っており、「競馬 見えない」は、その日のバズりワードの上位にランクインしていた。
後にこのレースは、「衝撃珍映像」などの番組にも取り上げられた。
そしてそこでも視聴者の笑いを誘っていた。
このレースの映像が流された後、実況を担当していたアナウンサーがインタビューにこたえ、あの時のことを振り返っていた。
インタビュアー「大変でしたね。あのレースは。」
大変なんてもんじゃなかったですよ。まいりました。確かに雪は降っていましたが、レース前まではそれ程すごい降りではなかったんですよ。それがレース直前になっていきなり吹雪になってしまうんですから。
インタビュアー「今振り返って、どうでしたか?この実況は?」
いやあ、お恥ずかしい限りです。1周目はどうにか冷静さを保つことができたんですが、2周目は本当に持ちこたえられませんでした。噛んだりもしましたし、同じ言葉を立て続けに使ってしまいました。さらには私としたことが疑問文を使ってしまったものですから、自分でも何をやっているんだと思い、絶望的な気持ちにさえなりました。正直、最後の直線になる頃には、頭が真っ白で、早く馬の姿が現れてくれと、祈るように思っていましたね。そうでなかったら、もう黙るしかなかったと思います。
インタビュアー「この吹雪の中でのレースが決定打となって、この後の2レースは中止となってしまいましたが、どうでしたか?」
正直、中止になってくれてほっとしたというのが本音です。まあ、実況を仕事としている私がこんなことを言ってはいけないんですが、でもあの時ばかりは実況が嫌になりました。
インタビュアー「そうですか。でも、今ならもっとまともな実況ができるんじゃないですか?」
無理です。あの実況は今でも思い出したくないです。まともな実況なんて今でもできないです。本当にお恥ずかしい限りです。1つだけ救いがあるとすれば、視聴者の人から励ましの言葉をいただいたことですね。
インタビュアー「というわけで、雪で全く見えないレースになってしまった『ノベルライターステークス』の映像をお届けしました。ありがとうございます。それではスタジオにお返しします。
…、というわけで、この悪夢のような悲惨な実況は、動画サイトやSNS上にアップされ、人々の記憶に残っていくのであった。
以上。