〜不穏〜
オーガの軍勢を撃破したユレン達は里に戻ってきた。
「ユレン!!」
チェルシーが駆け寄って来る。
「お父さんは無事!?」
チェルシーは早口に捲し立てる。
「大丈夫、全て終わった」
「ワン!」
ユレンがそう言うとハヤトが続けて褒めて欲しいのか吠えた。
「ユレンもハヤトも本当にありがとう……」
チェルシーは目に涙を溜めながら感謝する。
「ワシからも礼を言わせてくれ」
セネクスさんが結界を解除してこちらにやって来る。
「お主はこの里を救ってくれた、本来は最悪全滅もありえたことじゃ、本当にありがとう」
セネクスがお辞儀する。
「いえ、俺は本来こんな力はなかったです、俺でも力を手にしたのは偶然にしては出来すぎていると思っていて何か理由があるのだと思います、それならこの力を思う存分役立てていきたいと思ったまでです」
ユレンが自分の思いを告げた。
「それでも……ありがとう」
セネクスは柔らかな笑みを浮かべた。
エサラとアイリスがやって来る。
「今日は危機を乗り越えたお祝いに宴をします、ユレンさんも是非参加してくださいね、あと夫は脳震盪を起こして気絶しただけみたいです、そのうちに目を覚ますと思います」
「美味しいものいーっぱい食べよーね!!」
アイリスは嬉しくて小躍りしながら言う、ハヤトはアイリスにモフられてご満悦だった。
夜になり広場で宴が始まる。
初めてお酒を飲んだが果実水で割ってるのか飲みやすくて美味しい。
料理も山菜から肉まで色とりどりの料理が並べられる
里の人達が和気藹々と楽しんでいた。
「ハヤト、そんなに焦って食べなくても料理は当分無くならないよ笑」
「ワン!!」
ユレンはハヤトが早食いでも挑戦してるかの様に肉に食らい付いていたので笑ってしまう。
ロイツが野菜炒めを食べるユレンの元にやってきた
頭に包帯を巻いているが元気そうだ。
「ユレン君助かったよ、怪我人は出たものの死亡者はいなかった、君のおかげだ」
ロイツは微笑みを浮かべた。
「いえ、みんなで戦ったんです、俺だけの力ではないですよ、それより怪我は大丈夫でした?」
ユレンは謙遜しながら言う。
「本当にありがとう、怪我は頭に切り傷と足を打撲しただけだ時期に治るよ」
面目なさそうにロイツは言う。
「お父さん! 目を覚ましたのね!」
続いてチェルシーがロイツを探してやって来たみたいだ。
「あぁ、心配かけてすまなかった、私はこの辺で失礼するよ、アイリスがはしゃぎすぎない様に側にいてと妻に頼まれてるんでね、チェルシーもエサラを手伝ってあげなさい」
ロイツは去っていった。
「そうだユレン、おじいちゃんが後で話せないかと言っていたわ!」
チェルシーは思い出した様に告げる
ユレンはわかったと言い頷いた
そしてチェルシーはエサラの手伝いに向かったのであった。
ユレンは腹も満たされたのでセネクスの所に向かう事にした。
「セネクスさん話があると言う事で伺いました」
ユレンはネクサスは家にいると聞き家の扉をノックする
扉が開きネクサスがユレンを家に招き入れた。
2人は椅子に座る
「さて話というのはスキルに関してじゃ」
セネクスは語り出す。
「ワシはスキルに"魔導の心得"と言うのを持っている、このスキルをお主も覚えたらこの先大いに役立つと思ってのぉ、魔法詠唱の短縮、魔法の威力も上がる効果があるんじゃが、しばらくこの里に居て覚えてみんか?」
ユレンは話を聞いて考える
急ぎの用事もないし、覚えていて損はないと思い快諾する。
「わかりました、ご指導よろしくお願いします」
「ホッホ、ユレン君ならすぐに覚えられるじゃろう、住む所は、空き家を貸すから好きに使うと良い」
セネクスは弟子ができて嬉しいのか上機嫌で言った。
修行の日々が始まり数日が経過する。
魔力を練る訓練、詠唱速度の短縮化、セネクスとの模擬戦、内容は厳しかったが力が付いていく事を日々感じユレンはとても有意義な生活を送っていた。
ある日訓練を終えユレンとハヤトは家に帰宅すると、前に住んでいた物置き部屋から持ってきたページが開かない古びた本が何故か机の上に置かれていた。
ユレンはアイテムボックスから出した覚えはないし、家を出るときは鍵をかける、そもそも人口が少ないこの集落で盗みをやる人がいるとは思えなかった。
ユレンは不思議に思いながら本をアイテムボックスに戻すために手に取る。
その時本が光り出しページが高速で捲れる。
ユレンはそれを見る、いや、正確には目を離せられなかった。
「ワンワン!!」
ハヤトは警戒し吠える。
光が消え本は床に落ちる。
ユレンは呆気に取られた
その時ユレンは激しい頭痛、目眩、吐き気に襲われる
「頭に何かが流れ込んでくる……うぁぁぁ……」
ユレンは倒れる
「ワン!! ワン!!
ハヤトは倒れたユレンを心配し吠え続けた。
薄れゆく意識の中ユレンの脳内に響くアナウンス
(※ 天術 "カタストロフィ" を習得しました※)
ユレンは意識を手放した。
夢を見ていた。
空の雲にまで届く様な大きな木だ
漆黒の闇が木に迫る
翼を持った人達が木を守ろうとしている
木の中から誰か現れた、とても綺麗な女性だ
場面は変わる……
今度は果てしなく真っ白い空間にポツンとある椅子にユレンは座っている
正面にはさっき見た綺麗な女性が立っていた
「エヴァーグリーンは元々世界樹があった大森林でした、世界樹は天魔対戦の最中ユグドラシルの力を使い切り枯れましたが、僅かに大地へユグドラシルの力が流れ豊かな恵みをもたらし今に至ります、ですが今現在闇の者が現れ密かに大地に流れたユグドラシルの力を良からぬ事に使おうと企てています、天の因子の適合者よ、どうかこの地を救ってください」
女性は哀しげな声で言った。
ユレンはベッドの上で目が覚める
「なんだよそれ……」
情報が多すぎて処理しきれない
本当は起きてたんじゃないかと錯覚するくらい夢の中の体験がリアルだった。
「ワン!!」
ハヤトが駆け寄って来る
「ハヤト、どうしたの!?」
チェルシーの声がした、家の中にいるみたいだ
ベッドに運んでくれたのはチェルシーだろうと予想がつく。
「ユレン!! あんた大丈夫!?」
チェルシーはハヤトの後を追ってきてユレンが目覚めた事に気がついた様だ。
「なんとか……どうしてここに?」
ユレンはチェルシーに聞く。
「たまたま家の前に通りかかったら、ハヤトがすごい吠えてて玄関越しにユレンを呼んでみても、返事がないから家に上がってみたら倒れてんだもん驚いたわ」
チェルシーはユレンを発見した時の様子を話した。
「お父さんとおじいちゃんには伝わってるから落ち着いたら、なんでこうなったのか教えて欲しいって」
続けてチェルシーはそう言った。
「心配かけてごめん……明日伺うって言っておいて」
ユレンはチェルシーに申し訳なさそうに言う
「何言ってんのそれくらいで謝んないの! あとユレンがおじいちゃんの所に行かなくていいわ、おじいちゃん達がこの家に行くって言ってたから明日来てって早速伝えに行くね!」
チェルシーは笑みを浮かべて言う
ユレンも微笑み返した。
「じゃあ私は行くね、何かあったらまた呼びなさい」
そう言うとチェルシーは帰っていった。
ユレンは今日自分の身に起きた事を、明日どう説明するか、信じてもらえるかと頭を悩ませるのであった。
次回 闇との戦い全編




