〜始まる殲滅戦〜
「起きろ、そろそろ時間だ」
「ん……」
赤龍がユレン達を起こす。
「体調は万全になったか?」
「体が軽くなった気がします」
ユレンは微笑んだ。
「各々軽く体を動かして軽い物を食べてスタンピードへ向かおう」
「わかった!」
ユレンの指示にハヤトとレオナは頷く。
「赤龍さん今どんな感じですか?」
ユレンはスタンピードがどれくらいまで迫っているかを赤龍に聞く。
「その前にまだ名を名乗ってなかったな、我が名はエクスデスただの古き赤竜だ」
「そうでしたね、俺はユレン従魔のハヤト仲間のレオナです」
ユレンはエクスデスにハヤトとレオナを紹介する。
「よろしくお願いします」
レオナとハヤトはエクスデスに頭を下げる。
朝飯を食べ終えた様だ。
「よろしく、スタンピードの様子だがまもなく衝突というところだ」
「わかりました、間に合いますか?」
「我の飛行スピードなら間に合う、そろそろ出発するぞ」
「わかりました」
「ハヤト、レオナ聞いたな? 行くぞ!」
「わかった!」
「準備はできている」
エクスデスに準備万端な事を伝える。
「わかった、我の背に乗れ」
ユレン達は身を低くしたエクスデスの背中に乗り込んだ。
「よし、乗ったな、しっかり捕まっておれ」
エクスデスは翼をはためかせる。
「おぉ……すげぇ」
エクスデスは上空へ向かう。
大地を見下ろす形に思わずユレンは声を洩らす。
「高いー!!」
「英雄になった気分だ」
1人と1匹もテンションがめちゃくちゃ上がっていた。
「では行くぞ」
エクスデスはものすごい速さで飛行を始めた。
「これならあっという間だね!!」
「あぁ、もう間も無くだな」
到着が近い様だ。
「えげつないモンスターの量だな」
犇くモンスター達にユレンが呟く。
「ヘレクレイム側の兵だ! モンスター達に向かって行っている、始まったか……」
レオナは戦況を見てそう言う。
「どれ、我からの餞別だ、少し耳を塞いでおれ」
ユレン達は耳を塞ぐ。
「ガァァァァァ!!」
エクスデスはニヤッと笑うと咆哮した。
そしてモンスターも人も等しく動きを止める。
「もう塞がなくていいぞ」
「いや、耳を塞いでても鼓膜が破れるかと思いました」
レオナはキーンとなった耳を心配しながら言う。
「すまないな、だがモヤに操られてた我の憂さ晴らしだ、着地地点を用意してやる」
そう言うとエクスデスは口に高エネルギーを溜め始めた。
そして赤龍の本当の力をユレン達は思い知る……
「灼炎星崩落咆」
それは最早極太のレーザーだった。
犇くモンスター達に降り注ぎ半数のモンスターは消滅し大地はガラス化する。
「モヤに操られてた事に感謝するとは、あれを初見で受けてたらこの世にはいないぞ……」
レオナは顔を青褪めさせながら言う。
「ありがとうございましたエクスデスさん、皆飛び降りるぞ!」
「突風」
ユレンは突風が上空に向かう様に地上に魔法を放つ。
そしてユレン達は飛び降りる。
「またいつか縁があれば会おう、ユレン、ハヤト、レオナよ」
そして赤龍は山へと帰って行った。
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「どうすればいい……」
パメラは焦っている。
皆を無駄死にさせない為に退却しようにも最早間に合わない。
だが誰もが予想してない事が起きた。
赤龍の放った1発の攻撃はモンスター達に向かって行き蹴散らしていった。
そして赤龍はこちらには何もせずに帰って行く。
「俺は夢でも見てんのか……」
ザガはあり得ない事を目の前にし頭が混乱している。
「誰か落ちてくる……」
雄大がユレン達に気づく。
そして誰もが皆この後起こる無双劇に目を見開き口をポカンと開ける事になる……。
ーーーーーーーーーーー
突風が着地の衝撃を相殺し、ユレン達はモンスターの群れのど真ん中に降り立った。
フリーズしていたモンスター達だが我に帰ると一斉にユレン達を排除しようと襲いかかりに向かってくる。
モンスター達は本能でユレン達を1番最初に殺さなければならない事を察していた。
「ハヤト、レオナ、これから殲滅魔法の詠唱を始める、時間を稼いでくれ」
「任せて主」
「わかった」
ハヤトとレオナはスキルを発動する。
「氷狼王変化」
「雷鳴剣」
ハヤトが駆ける、氷の爪がモンスターを切り裂く、牙はモンスターを噛み砕く。
ロックバードの投石を一回転して回避しハヤトは言う。
「氷魔法行くよ!」
ハヤトはレオナが巻き込まれない様に忠告した。
「氷河時代」
ハヤトの前方に居たモンスター達は凍りつく、大地は凍りそこは幻想的な氷の世界とでも言う様な光景が広がる。
「ふ、流石だな……」
レオナはモンスターを斬り捨てながら言葉を漏らした。
レオナなの華麗な斬撃がモンスターに死をもたらす。
ホブゴブリンが一斉にレオナに襲いかかるが剣から発するプラズマが襲いかかる者全てを焦がす。
「雷煌飛斬」
雷の斬撃が飛び交う。
それを受けたモンスターの断末魔が響き渡る。
バラバラになった体が宙に舞っていた。
「電光石火」
レオナのスピードが倍になる。
そのスピードにモンスターは追いつけない、レオナは駆け出しながら剣を振るう。
レオナが過ぎ去った後にはただ屍だけが遺されていた。
「行くぞ!!」
しばらくするとユレンが詠唱を完了しハヤトとレオナに声を掛けた。
「星屑の雨」
小隕石が上空からいくつも降り注いでいた。
逃げ惑うモンスター達はそれに押し潰される。
大地にいくつもクレーターが出来上がった。
モンスター達は風前の灯だった。
20万居た数はエクスデスの攻撃とユレン達の攻撃で2万を下回っていた。
モンスター達は恐怖し散り散りになって逃げる。
そこにヘレクレイム側の戦力が逃げて行くモンスターに追い討ちを掛けて行った。
中にはユレンに攻撃する者もいたがユレンは樹剣で次々と斬り捨てていった。
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「あいつら生きてたのかよ……」
バランは唖然とする、誰がどう考えてもあの状況から生還するのは不可能だと思っていた。
だがユレン達はピンピンしていた。
しかも敵だった筈の赤龍の背に乗って来たのだ。
自分はとんでもない奴に手を出してしまったのではないかと思い大量の冷や汗をかいていた。
「何者なんだあの人達は……」
雄大は突如現れモンスター達を倒していく者を見て思わず呟く。
自分は強いと思っていたが、この光景を見て少しでも自惚れていた事を何だか恥ずかしくなっていた。
「なんて奴らだ」
ザガはあり得ない実力を見て呆れていた。
だが冒険者の中にあれ程の実力者が居たかと記憶を探るゴルドーが試験を担当した新人冒険者と人とあまり関わらない女騎士を思い出す、無事に終わったら接触する事に決める。
「突撃ーーー!!」
パメラはここが好機と思い突撃の号令をかけた。
ユレン達に釘付けになっていた兵達が我に帰ると走り出す。
そして逃げ惑うモンスター達を狩っていった。
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「もうすぐ終わりだな」
ユレンはそう言うと樹剣でハイオークを真っ二つにした。
終わりは近づいていた。
「うぉぉーー!!」
兵達の勝鬨が響いた。
ヘレクレイムが滅びるか援軍と合流して勝つかの歴史に残るであろうギリギリの戦いのはずだったが、僅か3時間で終わった事は王国で未来永劫語られる事になる。




