〜打開策〜
「俺達にも関係があるってどう言う事ですか?」
ユレンは赤竜の発言に疑問を覚えた。
「多種多様なモンスターの群れが移動している、その先にはヒューマン達が住む都市がある」
「それってまさかヘレクレイム……」
レオナはとんでもない事態に青褪める。
「どうしてそんなが事がわかるのですか?」
ハヤトの疑問にユレンとレオナも確かにそうだと賛同した。
「我のスキルの一つに千里眼というものがある、そのスキルは遠くの光景を見る能力だ、多種多様の気配を遠くで感じそのスキルを使用した」
「さすが竜というところだな……」
赤竜の説明を聞きレオナは感心し呟いた。
「だがスタンピードは定期的に起こる現象だ、都市も最低限の準備は日頃からしてあるのではないだろうか」
「確かにそれもそうだな、商業都市が壊滅したらそれこそ国に大打撃をもたらすしな、何もしてないという事はないのかな?」
ユレンとレオナはよくよく考えるとそこまで慌てる事ではないのかと気づき始めた。
「スタンピードの規模が問題なんだ、軽く見積もっても20万以上の集合体だぞ」
赤竜は説明の補足をした。
「へ?」
ユレン達は皆目を点にして一瞬考えるのやめてしまう。
「今20万って言いました?」
ユレンは思わず聞き返す、きっと聞き間違いに違いないと思い。
「あぁそのくらいの数はいると思うぞ」
聞き間違いであって欲しかったと2人と1匹はそれぞれ頭を抱えた。
「ここまでの規模など聞いたことないぞ……」
おそらく世界初ではないかとレオナは考えた。
「だけど何でいきなり来たんだろうね?」
「それは恐らく我に取り憑いたあのモヤのせいだろうな」
ハヤトの疑問に赤竜は予想を立てた。
「長い年月を生きて様々なモンスター達を目にしているがおそらくあのタイプは寄生型だな、あれに取り憑かれた時激しい空腹が我を襲ったのもこの説の信憑性が増す、そう考えるとあのモンスター達は全て餌だ」
赤竜は論理的に考える。
「あのモヤは何らかのスキルか特性かはわからんがモンスターを少しづつ精神を侵食して呼び寄せる事ができたのだろう、だがモヤが倒された事により暴走状態にでもなったのか……ふむ考えたらキリがないな」
「まぁ原因はどうあれスタンピードを止めるしかないか……」
ユレンは起こってしまった事は仕方がないと考え解決策を考える。
「あぁ、だがあまり考えている時間はないぞ、ここから全力で向かったとしても間に合うかどうかもギリギリだ」
「んー、かなりヤバいね……」
レオナが考える懸念にハヤトも事の重大さを重く受け止める。
「救ってもらった恩もある、我も少しは手伝おう、我の背に乗せて送っていこう」
「それはありがたい……」
そう言うとレオナは赤竜にお辞儀をする。
「時間の余裕はできるだろう、なら連戦になるから少し休んで万全の状態で挑んだ方がいい、何せ相手の数は20万を超える」
「確かにそうですね、なら皆少し仮眠をとっておくか」
「我が周りの警戒をしといてやろう、頃合いを見て起こすぞ」
「何から何までお世話になります」
ユレン達は皆それぞれ頭を下げた。
朝日が出てきてもうすぐ夜明けを迎える。
少しでも体力を回復する為にユレン達は眠りにつく。
ーーーーーーーーーー
その頃バラン達は死に物狂いで走っていた。
幸いにも数が多いせいかモンスター達の行軍スピードは遅くバラン達とモンスターの群勢の距離は大幅に離れていた。
最小限の休憩を挟みまた全速力で走る。
「はぁはぁ、早く知らせねぇと……」
バラン達は商業都市のスラムで育った悪ガキの集まりだった、世話になった人、悪友、入れ込んでいる娼婦など居てバラン達にもそれなりに都市には愛着がありモンスター達にくれてやるつもりは毛頭ない。
そして夜明けと共にヘレクレイムが見えて来る。
門兵は険しい顔をしながら寄ってくる冒険者達を見て首を傾げた。
「ぜぇァはぁッ、た、大変だ、ものすごい数のモンスターが……こ、この都市に向かって来てる……」
バランは門兵の足にしがみつき呼吸が乱れながらも、自分が見たものを簡潔に伝えた。
パーティメンバーもこれ以上動けなくそれぞれ倒れ込んだ。
「なんだとッ!」
門兵は一瞬本当かどうか疑ったが、ここまでの虚偽の報告をしても罪に問われるだけでバラン達に何もメリットはないし、その真剣な目を見れば全て真実だとわかった。
門兵は慌てて領主館に行き報告する。
領主のカイン・エスラス・クロ・ヘレクレイムは頭を抱えた。
「どうすればいい……」
領主が保持している兵とこの都市に居る冒険者を総動員しても数の暴力には全く歯が立たない事は明白だった。
すでに冒険者ギルドには通達済みで緊急依頼を出している。
「まず都市全体の住民にこの話が広まればまずパニックになる、そして我先にと逃げ出すはずだ、それに便乗して暴動、窃盗、強姦、殺人、あらゆる犯罪が際限なく起こり出すのは目に見えているか……」
カインは治安の悪化を1番の問題と感じていた。
「時間は有限だ……とりあえずギルドマスター、あとは高ランク冒険者も加えて会議を開くか……」
そう呟くとカインは執事を呼び準備をするよう指示を出した。
「皆よく集まってくれた」
カインが会議を仕切る。
そして集まったメンバーを見渡した。
ヘレクレイムのギルドマスターであるザガは元Aランク冒険者である。
巨大なバトルアックスを武器にしその豪快な攻撃は一騎当千と冒険者の間ではもっぱら有名であった、人望も厚く判断力も備わっている事もあり、引退と同時にギルドマスターに抜擢された。
そしてこの都市にたまたま来訪していたSランク冒険者がいた。
名前は 高橋雄大
彼は大学生の頃日本からこの世界に異世界転移をしてしまう。
基本的な戦闘ステータスが軒並み高かった為、冒険者になり自由気ままに第二の人生を謳歌していた。
メキメキと頭角を現しここ最近Sランク冒険者になる。
性格は人当たりが良く、助けを求められたら手を差し伸べてしまう善人だ。
そして彼のパーティには4人の綺麗な女性がいて皆Aランクで皆雄大が好き、だが本人は気づいていないという無自覚ハーレム状態であった。
カインが抱えている兵の総指揮を任されているのはパメラである。
女性でありながら類稀なる剣の才能を持っている。
冒険者だった頃カインがスカウトし、今では総指揮まで上り詰めた。
熱血な性格で訓練がめちゃくちゃ厳しい事から兵からは陰で鬼と呼ばれている。
他にもユレンの試験官を務めたBランク冒険者のゴルドーなどベテランの冒険者が会議室に集まっている。
「……モンスターの規模がまずヤバいな」
ザガは顔を歪ます。
「早馬はすでに出発して王国へ援軍を要請しに行きましたよね?」
雄大がカインに問う。
「早馬はすでに出してある、援軍が来るまで持ち堪えられるかどうかだな……」
カインは質問に答えた。
「都市の兵と冒険者を合わせて三万弱の人数に我が兵達が仕掛ける罠も含めても持ち堪えられるか……かなりギリギリですね……」
パメラは考えを発言した。
「だがやるしかねぇ、幸いここは商業都市だ、ありったけの回復薬もある」
「あぁ費用は捻出しよう」
都市を守る為に金を渋るつもりはカインには無い。
「作戦としては、まずは魔術師達の魔法で弾幕をはりましょう」
「その後は歩兵と騎馬隊の突撃で冒険者の遊撃が1番無難か」
パメラは雄大の作戦と自分の最適解を組み合わせた。
「まぁとりあえず作戦は決まったな、あとは準備に取りかかるだけだ!」
ザガは気合を入れる。
「大混乱を避ける為、援軍が間に合わないと判断した場合住民達を逃す事にする、それまで戦場に赴く者は他言無用を各自通達してくれ」
カインの話を聞いた3人は頷いた。
「それでは準備に取り掛かってくれ、解散!」
カインの言葉に忙しなく皆、会議室を出て行く。




