〜雷雨〜
「ギャォォォォァ!!」
赤竜は旋回しながら咆哮していた。
「仮に逃げられてもすぐ追い付かれるか……」
レオナは最悪な状況を打破する為に思考を巡らせていた。
「主? 赤竜に何かした?」
「んなわけあるか」
一周回ってユレンとハヤトは軽口を言い合う。
開き直ってると言っても過言ではない。
「肝が据わってると言うか何というか……」
レオナはそのやり取りを聞いてジト目をしていた。
「そもそも竜は叡智あるものなのにあれはそうは見えないんだよな……」
ユレンが所持してる本の中に竜の文献があったが今の赤竜を見ると話は全く違っている。
「主、何かあの障気見覚えある」
「あ、ジェネシスとヴァイアスの闇と同じ感じがしない?」
ハヤトの既視感は森で戦った強敵達が発っしていた雰囲気に似ていた。
「あぁ、確かに」
ユレンはハヤトの意見に賛同した。
「ジェネシスとヴァイアスとは?」
レオナが疑問を口にする。
「エヴァーグリーンで戦っためちくちゃ強かった奴ら、何の目的かはわからないけど悪巧みしてた」
ハヤトはレオナの疑問に答えた。
「エヴァーグリーンから来たとはあそこはベテラン冒険者でも足を運ぶのを忌避するぞ……」
レオナは衝撃の事実に赤竜と対峙する事を忘れそうになってしまう。
そんな会話をしているユレン達にイラついたのか赤竜は攻撃に移る。
赤竜は上空からブレスを放つ。
「爆炎」
灼熱の爆発はブレスを相殺する。
「まずはあいつを地上に引きずり下ろさないとな」
ユレンは思考を巡らす。
「何食わぬ顔でブレスを相殺している事はユレンにとっては当たり前なのか、ハヤト?」
「んー? まぁ僕ら結構強くなったし?」
ハヤトは質問を質問で返す。
(いや……知らんわ……)
真面目なレオナが心の中で突っ込む貴重な瞬間である。
「ガァァァァァ」
怒った赤竜は低空飛行で突進してくる。
(お、チャンス到来!)
ユレンはすかさず樹木生成を発動。
赤竜は樹の幹に絡め取られ地面に顔をつけた。
「お! 僕の出番かな!」
ハヤトはスキルを発動する。
[氷狼王変化]
ハヤトの毛並みは白銀になりとてつもない冷気が空気を冷やす。
「何かもう言葉が出ないな……」
そう呟くとレオナは赤竜にブルっていた少し前の自分を恥ずかしく思っていた。
「氷吹雪」
「ガァァァァァ」
赤竜は絶対零度の攻撃にたまらず悲鳴をあげる。
「氷爪連斬」
続けてハヤトの爪が赤竜に追い討ちをかけた。
「どんなもんだい!」
ハヤトはドヤ顔だ。
「やれやれ、私も本気を出すしかないか」
ユレンとハヤトに触発されレオナはやる気を出す。
「雷鳴剣」
レオナのロングソードからプラズマが発生する。
ヂリヂリと鈍い音を発し触れたらタダで済まない事は見てとれた。
「雷煌飛斬」
帯電した斬撃が赤竜を焦がす。
悶え苦しむ赤竜から発生している障気を含んだ黒いモヤが収束し人の形になる。
そして赤竜は意識を失ったのか動かなくなった。
「オマエラコロス」
人型の黒いモヤは人ならぬ声だった。
「やれる者ならやってみろ!」
ハヤトはモヤに向かって行き氷爪斬をかます。
だが黒いモヤは霧散した後また人の形に戻る。
「フショクノヤミ」
「ハヤト! 下がれ!」
ユレンは咄嗟にハヤトに指示を出す。
ハヤトは身の危険を感じ後方へ下がった。
ハヤトがいた場所の草木は枯れ腐り液状になった。
「危なかった……」
ハヤトはゾッとしている。
「物理攻撃は無効か……」
レオナはハヤトの攻撃が黒いモヤにダメージを与えてない事を見切る。
「炎牢」
すかさずユレンは炎の牢獄でモヤを閉じ込めるもモヤは効いている様子ではなかった。
「無敵か?」
ユレンは魔法も効かない理不尽な存在に頭を悩ます。
「フショクノヤミ」
黒いモヤが今度はレオナに向けて闇を放った。
「雷煌飛斬」
レオナは雷の斬撃を飛ばす、腐蝕の闇を掻き消し斬撃は黒いモヤに迫るがそれをモヤは回避する。
(ん? 何かおかしいぞ?)
ユレンは先程の一連の流れを見て違和感を感じていた。
「ハヤト、もう一回あのモヤに攻撃をしてみてくれ」
「急にどうしたの?」
ハヤトはユレンの指示に疑問を浮かべる。
「確認したい事がある」
「んー、たぶん僕の攻撃は通じないと思うけど……やってみるよ!」
ハヤトはモヤに向かって行き再び氷爪斬をくり出すもやはり黒いモヤは霧散した後元に戻る。
「水槍」
続いてユレンが先程の炎魔法から水魔法に変えて放ってみる。
ハヤトの時と同じ様に霧散し元に戻る。
「レオナ、さっきの攻撃もう一回頼む」
「……わかった」
レオナはモヤに向けて雷煌飛斬を放つ。
黒いモヤは回避する。
「ユレンが気付いたのはこれか……!」
レオナも黒いモヤの行動を理解した。
「え? なになに?」
ハヤトは答えが知りたくて仕方がなかった。
ハヤトに答えを教える前にユレンは、先に攻撃されない様炎牢を放ちモヤを閉じ込めた。
ユレンは謎を明かす。
「あのモヤは俺とハヤトの攻撃をわざわざ受けていた、それはダメージが無く回避する必要がないからだ、だがレオナの攻撃は回避した、レオナは雷系統の技を放っただろ? それを回避したあいつは雷が弱点だ」
「そういう事か!」
ハヤトは答えを聞いてスッキリしていた。
「そうと分かれば後は攻撃を当てるだけだな」
とユレンは言う。
「だが奴に回避させない手段がない」
拘束しようにも物理も他の魔法も効かない事をユレンに指摘する。
「俺に考えがある」
ユレンはそう言うとハヤトとレオナに耳打ちする。
「なるほど!」
ハヤトとレオナはハモる。
「そろそろ魔法の効果が消える頃だ、いくぞ!」
「豪雨」
黒いモヤの上空に小さな雨雲ができ豪雨が降り注ぐ。
「雷煌飛斬」
レオナは斬撃を放つ、黒いモヤにではなく雨雲に向かって。
すると雨雲自体が帯電し降り注ぐ豪雨にも雷の属性が加わった。
さすがに黒いモヤも雷雨は回避しようがなかった。
モヤは徐々に晴れていく。
するとモヤの中に小さな赤い核の様な物が浮かんでいた。
「そこだぁ!!」
ハヤトは直感でそれが本体だと思いすかさずその核を爪で引き裂く。
核は引き裂かれると粉々になり黒いモヤも同時に消えた。
「主、レオナ、完全勝利だね!」
ハヤトは凄く嬉しそうだ。
「あぁ、レオナがいなかったら打開策がなかったな」
ユレンはレオナに微笑む。
「そんな事はない」
レオナは照れていた。
「世話になったな」
そこに気絶していたはずの赤竜がユレン達に話しかけてきた。
ユレン達は咄嗟に攻撃の体勢に入る。
「待て、お主らを襲うつもりはこれっぽっちもない」
赤竜は誤解を解こうとする。
「話せるのか?」
ユレンは樹剣を構えながらも尋ねる。
「どうやら正気を失っていた様だ、本当は少し前に目が覚めていたが戦いの一部始終を見ていた、君らがあのモヤを消滅させて私を救ってくれた事を感謝している」
「まぁ、モヤをあなたの中から出せたのは偶然なんですけどね……」
ユレンは赤竜の言い分に申し訳なさそうに付け足した。
「それでもだ、どのみち私は助かった、ありがとう」
竜は優しい口調で感謝の言葉を述べた。
「まるで絵本の中にいるみたいだな……」
レオナは竜と会話している事に苦笑する。
そもそもワイバーンなどの亜種ならともかく、人が一生の内に真なる竜に会ある事など無いに等しい。
それなのに竜を助けた事になり、その竜から感謝の言葉を聞くとはレオナは思いもしなかった。
「まぁ、一件落着って事?」
ハヤトはおちゃらけて言う。
「まぁ、そうだな」
ユレンは笑顔になる。
すでに皆攻撃の構えを解いていた。
「いや、これで終わりじゃない、それはおそらくお主達にも関係ある」
赤竜はスタンピードが起こっている事を感じ取っていた。
ユレン達はもう一波乱の予感にゲンナリとしていた。
次回、スタンピード介入




