〜井の中の蛙〜
ユレンは焦っていた、今まで戦ってきた敵とはレベルが違いすぎると。
「風刃」
「炎渦」
「水槍」
あらゆる攻撃を繰り出すが、ジェネシスは攻撃を弾き、回避し、防御し、相殺する。
「君の弱点を教えてやろう、それは近接攻撃に何ら対抗手段がない事だ」
次の魔法を発動するのに数十秒のインターバルがある、上位の魔法になるほどその時間が長くなる。
そこを突いてジェネシスは接近し体術で攻撃してくる。
ユレンは短剣で対抗するが、剣術は素人でありお世辞にも近接攻撃ができるとは言えなかった。
ジェネシスの回し蹴りがユレンの脇腹を捉える。
「グォっぁあ」
ユレンは声にならない声を出し悶絶する。
「闇槍」
ジェネシスは追撃をする、ユレンは転がりながらもそれをなんとか回避した。
「そろそろ諦めたらどうだね?」
ジェネシスはユレンの前に立ちそう告げる。
そして魔法の詠唱を始める。
「闇玉」
ユレンにトドメを刺そうとするジェネシスの顔に矢が迫る。
ジェネシスは首を左に曲げ矢を難なく回避した。
「ユレンに近寄らないで!!」
矢を放ったのはチェルシーだった。
ユレンが心配で結局ついて来てしまった様だ。
チェルシーは矢を射続ける。
ジェネシスは矢を回避し、ユレンにトドメを刺すために出した闇玉をチェルシーに放つ。
チェルシーはそれを受けてしまい吹き飛んだ。
「まだよ!!」
チェルシーはすぐに立ち上がる。
「元気なお嬢さんだ」
ジェネシスは余裕の笑みでチェルシーを煽った。
「……チェルシー……ダメだ」
ユレンは力を振り絞り立ち上がる、ボロボロの体に鞭を打ちチェルシーの所に向かう。
「闇玉」
ジェネシスの魔法が再度チェルシーを襲う。
「きゃあッ!!」
魔法はチェルシーに当たりチェルシーの体に生傷が増える。
「さてお遊びはこれまでだ、死ね」
ジェネシスはチェルシーの腹に手刀を放つ。
(助けて、誰か……)
チェルシーはそう思いながら、この後自分に起こる最悪の結末を悲観し思わず目を瞑る。
だが痛みは襲って来ない
薄目を開ける
そこには手刀で腹を貫かれたチェルシーを守るユレンが立っていた。
「ゴッがあぁッハッっ」
「……フ れいム・ラン ス」
ユレンは吐血しながらも炎槍をゼロ距離でジェネシスに当てジェネシスは吹き飛ぶ。
ユレンは前のめりに倒れる。
「いやぁぁッ……ユレン!!」
倒れたユレンにチェルシーは悲鳴をあげた
涙が止まらないないチェルシー
膝をつき軽く揺さぶるがユレンに反応は無かった。
「こんなに血が……」
ユレンの血が土に染み渡る、そして血溜まりができていく。
チェルシーはパニックになっていた
ユレンを手当てしなきゃいけないが、すぐまたジェネシスが起き上がりこちらにやって来るのが予想ついた。
「どうしたら……どうしたらいいの……」
チェルシーは只々焦りを募らせる。
「ふぅ、なかなか痛いではないか」
ジェネシスは何でも無かった様に起き上がり衣服に付いた土を払った。
「あの少年はどのみちもう死ぬだろう」
そうジェネシスは言うとユレンとチェルシーの居る場所に戻る為に余裕を崩さずゆっくり歩き出した。
(ここはどこだ?)
(俺は死ぬのか?)
(チェルシーを守らなきゃ)
ユレンにはまだ息があった。
だがもうすぐ自分は死ぬとユレンは嫌でもわかる。
(たかを括っていた、今まで何事もなく戦いに勝利してきた、これからもそれが続くと思っていた、だが自分は井の中の蛙だった……)
ユレンに悔しさが込み上げて来る。
(俺はどうなってもいい……せめてチェルシーだけでも救う力を……どうか……どうかッ)
ユレンは願う、救う力が欲しいと。
[※天術 "カタストロフィ" の発動条件を満たしました カタストロフィを発動しますか?]
[YES /NO]
ユレンは答える、"YES" と。
倒れたユレンを軸に巨大な青い魔法陣が展開する。
魔法陣は流れたユレンの血を吸収する。
ユレンの体から青いオーラが湧き出た。
「何……? これ……?」
チェルシーは何が何だかわからず硬直した。
そこにユレン目掛けて闇槍が向かって来る。
青いオーラに闇槍は掻き消された。
「不完全だが天術を発動させたか、これは少々マズイな」
ジェネシスがユレンの元に到着し、すぐさま魔法を放つが無効に終わりユレンの姿を見てそう言った。
ユレンはゆっくりと立ち上がる。
そして一瞬にして消えジェネシスの前に立つ。
ジェネシスは驚き目を見開く。
とんでもないスピードで移動し、消えた様にジェネシスでさえ錯覚した。
「なッ!」
ジェネシスの腹にユレンの掌底が入る。
ユレンが初撃で受けた攻撃と全く同じだった、まるでユレンからのお返しとでも言う様に。
ジェネシスは吹き飛ぶ。
「やれやれ、藪を突いたら蛇が出て来るとは……」
ジェネシスは起き上がりそう愚痴をこぼした。
「ωΣfor€#jm-ΩΣ-δα」
ユレンは謎の言葉を発する。
その後にユレンの背後に四つの魔法陣が出て来る。
それぞれの魔法陣から光の剣が出てくる。
光の剣はユレンを囲む様に旋回し始めた。
「ユレン?いったいどうなっているの……?」
チェルシーはそう呟く、ただ唖然とユレンの姿を見ているだけしかできなかった。
光の剣がジェネシスに向かう。
ジェネシスは飛んできた剣を回避するが追尾してくる。
「闇陽炎」
ジェネシスは上空へジャンプし飛んでくる光の剣を一網打尽にしようと魔法を放つ。
だが光の剣は魔法を突き破ってジェネシスに迫る。
「クソッ……ダメか」
「ぐぉッ」
そう呟くジェネシスに四つの光の剣は突き刺さる。
そしてカタストロフィはまだ終わらない。
「ΩααΣ-〆jh×:Ω」
右手をジェネシスの方に向け前に出しユレンは謎の言葉を発する。
右手は眩しいほどの輝きに包まれる。
剣は輝きを増し、ジェネシスは飲み込まれる。
光は巨大な十字架に変形していく。
「ぐぉぉぉーぉッぉ」
ジェネシスは苦痛に顔を歪ます。
「死と闇と祝福と」
ジェネシスは自身最強の魔法を繰り出す。
ユレンの魔法に対抗する様に闇は逆さ十字に変形する。
そして闇と光が混ざり合う。
だが闇は徐々に光の十字架の中に溶けて消えていく。
「私もここまでか……だがあのお方は永遠に……」
ジェネシスはそう呟くと静かに消えていく。
光の十字架は消えそこに残ったのは大きなクレーターだった。
ユレンの体は元に戻りそして倒れる。
ユレンは右手は失っていた。
闇の柱も消滅し、戦いを終えた戦場は静寂に包まれる。
「ユレン……」
チェルシーはユレンに恐る恐る近寄る。
正直に言ってチェルシーは少しユレンに恐怖を覚えた、だがそんな自分をチェルシーは恥ずかしく思った。
複数の気配がチェルシーの元に寄ってくる。
「チェルシー!!」
「大丈夫か!!」
ロイツの声がチェルシーを呼ぶ。
「お父さん……」
チェルシーはロイツの声に応える。
「これはいったい……」
ユレンの惨状にロイツは絶句する。
生きているかもわからなかった。
ロイツの小隊の一員が気を失ってるハヤトを抱えていた。
「終わったのね……うぅ」
ハヤトの姿も見てチェルシーは全てが終わった事を実感して涙を流す。
そして2人はロイツ達に運ばれ里に戻るのであった。
次回 ユグドラシルからの報酬




