後日談 アーノルド(アーノルド・コーコラン)
職場と家でのギャップがヤバすぎるルイス様。
俺は家を出て、騎士として働くことにした。
コーコラン家は没落し、両親と兄は平民になった。10何年も一緒に暮らしてきた家族だけれども、特に何も思うことはなくて、そしてその事実が俺を少し惑わせた。……が、すぐにそんなものだと思い直した。
「アーノルド、森に魔物が出た。第二組と第五組は出動だ。準備をしておけ」
騎士団副団長、ルイス・ベアード様がそう言う。俺は平民の身分になったも等しいので、基本的には貴族の誰よりも身分は低い。けれど、ありがたいことに俺は、魔力量と、ルイス様や他の、貴族時代に少し関わりのあった騎士の推薦のおかげで、第二組隊長という立場にいる。
ルイス様は、前は「氷の騎士」と陰で呼ばれるくらい態度が冷たかったのだが、最近柔らかくなってきた。何でも、学園に通っていたころ、少し関わりのあったミサ・ジャーディン令嬢と結婚したから、らしい。あの「氷の騎士」の氷を学生時代の――一応友人と言えると思う――が解いたかと思うと、いろいろ感慨深いものがある。
「……そういえば、ライラ様がお子様を出産されたそうだな、何ともめでたいことだ」
準備の途中でルイス様のそんな言葉が聞こえて、俺は顔を上げる。俺の食いつきに、ルイス様はやや引き気味だったが、そんなことその時の俺にはどうでもよくて、ただそれが事実かどうか、無我夢中で質問をしていた。
「え?それって本当なんですか?出産て、アドラー様と?男児です?それとも女児?」
俺のその質問に、ルイス様は面倒くさいとばかりに頭を掻いて呆れながら答える。
「あ゛あ゛、一気に言うなって。……本当だ、けれど俺もさっき団長に聞いたばっかのトップシークレットだぞ?うっかり言ってしまった俺が悪いんだが、くれぐれも公になるまでは漏らすなよ」
ルイス様はそう俺に念を押す。そのくらいの分別はあった。
「アドラー様とのお子様に決まってんだろ?それで、男児か女児かは知らない。……っていうかお前、何でそんなに食いつくわけ?ライラ様に懸想でもしてんの?学生時代に好きだったとか?」
ルイス様の的確な言葉に、俺はひゅっと息を吞む。本人は冗談のつもりなんだろうが、俺には本当に洒落にならない。
ルイス様にそう言われて俺は、彼女のことを思い出す。輝く金髪の髪に紅い瞳。どこか人を寄せ付けないような容姿を持った彼女とは、学生時代に毎日一緒に――他の奴等も一緒だったが――昼飯を食べていた。家のことで悩んでいた日に、「さっさと元気になれ」と言われた時は、自分の存在なんてちっぽけだと思い知らされた。そして、アドラー様に向ける幸せそうな笑顔に、残酷な事実に打ちのめされた。
自分がそんな感情を抱く彼女のことを、好きなんだと思っていた。けれど、好きというより憧れに近かったのかもしれない。俺とは違う、尊敬できる考え方を持った彼女への、”憧れ”。
お子様が出来たと聞いた時、確かに胸が痛かった。けれどそれは、失恋というより、憧れが失われた時の痛みだったのかもしれない。
彼女の清々しいくらいに前向きな性格が大きく表れた笑顔が見えた気がして、俺はもう届かぬ憧れへとゆっくりと気持ちを馳せた。
お読みいただきありがとうございます。アーノルド、いや早く準備しろよ!とツッコミを入れてしまう私は作者失格ですね。
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