後日談 アイラ・メルヴィル(アイラ・ダーヴィン)
「結婚しよう」
ライラの婚約者であるアドラー王子がライラにそう言う。
義妹であるライラは、それに対して、最初こそ驚きを見せていたが、次第にその頬を赤く染めていく。
何とも言えない感情が胸に渦巻いてしばらくしたとき、俺はやっと自分の気持ちに気が付いた。
今はアイラ・メルヴィル公爵令息で――5年前はアイラ・ダーヴィン侯爵令息だった俺は、失恋してからやっと、義妹への本当の気持ちに気が付いたのだった。
「アイラ様」
専属執事のジョンソンが俺を呼ぶ。用件は分かっていた。
「最近、忙しすぎではございませんか?もう少し休んだ方が……」
案の定、俺の最近の忙しさについてで、最近何回もそのことを言われていて苛ついている俺は無言の圧力でジョンソンを黙らせる。
確かに、俺は最近仕事で本当に忙しかった。いや、わざと忙しくしていた。故意的にしているということも、その理由も、誰にも、ジョンソンにさえ言っていない。
……苦い気持ちを、あのことを考えたくないから忙しくしているなんて、誰にも言えないな。
「アイラ様!」
ジョンソンにもう一度呼ばれる。正面から睨むが、全く効果はなく、逆にジョンソンに正面から見つめられた。
「最近おかしいですよ?返事しないし忙しくても文句の1つも言わないし溜息ばかり吐いていますし……本当に何があったんですか?」
鋭いジョンソンはすぐに俺の異変に気付いたらしい。俺は答えたくなくて目を逸らす。
「それは……」
「もしかしてライラ様に何かされました?」
こちらを見つめるジョンソンの瞳には、ライラに対する紛れもない不信感が満ちていた。
「そんなことはない。ライラを疑うな」
思わず出たその言葉は、前の俺からは想像も出来ないような言葉で――
「本当にどうしたんです?魅了の魔法でもかけられました?」
不信がったジョンソンがさらに苛立たせるようなことを言う。ジョンソンの言葉を無視して、俺は黙々と仕事を片付けていった。
「ライラ様とアドラー様の間に、姫が産まれたそうです」
そんな言葉をジョンソンから聞いたのは、ある冬の日の、晴れた朝のことだった。
「そうか」
その言葉を聞いた俺の心の中には、何とも言えない喪失感と、ライラの冬の朝の日差しみたいに眩しい笑顔が広がっていた。
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