番外編.アドラー視点 夢心地
「アドラー様」
俺は馬車でライラを待っていた。やっとライラの声がして、俺はライラを馬車に乗せる。
「遅かったな」
今から行けば、ギリギリ間に合うほどの時間で、俺は慌てて従者に馬車を走らせてもらう。いつもより早めにと言うと、優秀な従者は頷いてすぐに馬車を走らせた。
「え、えぇ。少し、気持ちの問題というか……」
後半が聞こえなかったので、俺は聞き返す。
「ん?何か言ったか?」
そう言うと、ライラは曖昧な笑みを浮かべたまま、明確な回答を避けた。
明日が卒業式だ。卒業式の一か月後に結婚するのが王族の決まりとなっているが、ライラはそのことを知っているのだろうか。そもそもライラは、俺と結婚することに同意しているのだろうか。
俺がそんなことを考えていると、ライラから視線を感じて、俺は顔を上げる。
「どうかしたか?」
「アドラー様が、たまらなく格好いいなぁと思っておりました」
ん?
ちょっと待て。
頭の中でもう一度再生する。
『アドラー様が、たまらなく格好いいなぁと思っておりました』
ん?
「※♯&@¥♭%!?」
思わずのけぞって、馬車の壁に体をぶつけた。痛い。
けれど今はそれどころではない。本当にライラが言ったのだろうか。俺の幻聴じゃなくて?
「そんなに私のことが、嫌いですか?」
次に俺の耳に聞こえたのは、ライラの全くの見当違いな言葉だった。
「……っ。………………………そんなことは、ない。俺はライラのことが好きだ」
慌てて弁明するも、ライラはそれを世辞と捉えたらしい。
「ありがとうございます、お世辞だとしても嬉しいです」
「違う、お世辞じゃなくて、俺は本当に、…………ライラのことが好きだ」
勇気を出して告白するも、本当の気持ちは届いていないようだった。
「え、けれど、アドラー様はマリーちゃんのことが……」
なんと、ライラは俺がマリーのことを好きだと思っていたらしい。今までずっと勘違いされていたと思うと、胃が痛くなる。
「本当だ」
まだ信じられないようで、ライラは瞬きを繰り返している。
「……え?本当ですか?」
「……っだから、本当に、俺はライラのことが好きだ。…………………………なんなら、全校生徒の前でキスしてもいいんだぞ」
こんなことを言ったら引かれるだけだろう。けれど、ライラに本当の気持ちを伝えたくて、そんなことを言ってしまう。
「私、アドラー様のことが好きです」
信じられなかった。
「本当ですよ?」
そんな俺の心を見透かしたように、ライラがさっきまで動揺していた姿とは変わり、悪戯っぽくそう言って――俺にキスをした。
◇◇◇◇◇
ライラにキスをされたあの時から、俺はずっと上の空だ。
ライラと両想いだと考えると、それだけで、授業中でも何でも幸せで何も考えられなくなる。
「はぁ……」
俺は、今までとは違う幸せの溜息を吐いて、ぼんやりと窓の外を眺めた。
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