番外編.アドラー視点 兄とコンプレックス
最近番外編が多くてすみません……
「アドラー様、先程、第一王子――フィリップ様とお会いしたのですけれど」
そう昼休みに、ごはんを食べている中でライラから告げられた言葉に、俺は動揺を隠せなかった。
「……そうか」
なんとか返事はしたものの、間があいたので怪しまれているに違いない。
「少し気分が悪いんだ」
俺はライラにそう言って、その場を去った。
誰も来ない図書室の本棚の陰に移動して、へなへなと床に座り込む。
頭の中は、いろいろな感情で埋め尽くされて、ぐるぐる回っていた。
俺は、また失ってしまうのだろうか。
☆☆☆☆☆
そう、それは、俺がライラに冷たく当たり始めた頃の話。
俺との一か月に一度の会食(その時はその頻度だった)の時、いつも2人きりの時間を設けられるのだが――その時に、珍しくライラが俺に話しかけてきたのだ。
もうその頃は、ライラが俺に話しかけてくることなど珍しかったので、俺は思わず期待してしまった。
けれど、その次に聞こえたのは、あまりにも残酷なことで。
「アドラー様アドラー様、先日第一王子である、フィリップ様とお会いしたんですの!近くで見ても格好良かったぁ……アドラー様も、わたくしの、こ、恋を応援してくださりますか?」
仮にも好きだった人が、実の兄に心を奪われている。
けれど、目の前の好きな人は、俺のそんな淡い気持ちにも気づかずに、ただ純粋に、嬉しかったことを友人に伝える感覚で、俺に顔を赤くして――きっと、兄上のことを思い出しているのだろう――微笑んでいる。
……そんな顔、俺には見せたことないのに。
兄上に、嫉妬していた。優秀で、何でもこなして、そして、人の婚約者までもを――全てを、魅了してしまう。
小さい頃から比較されていて――その度に打ち負かされていて、しかもライラのことを好きにさせてしまう。俺にできないことを、一瞬にして成し遂げてしまう。
いっそ憎めるような性格だったらいいのに、この感情を全てぶつけてしまいたいのに、兄上の寛容で親しみやすい性格がそうはさせてくれない。
……兄上なんて嫌いだ。
そう大声で叫んでしまえば、この全てを兄上のせいにすれば楽なのに、声を発することができない。
「そ、そうか」
「そうなんですの!」
キラキラと輝く紅い瞳でこちらを見つめる好きな人に、俺は胸の中がもやもやするのを感じた。
「わかった、やるよ」
希望に満ちた婚約者の瞳に、俺は思わずそう言ってしまっていた。
……まぁ、もう会うことも少なくなっていたので、その話は自然になくなっていたけれど。
☆☆☆☆☆
「アドラー様」
隠れていたのに見つけられて、一気に現実に引き戻されて、俺が顔を上げると、紛れもない、見間違うはずのないライラの顔があった。
「何だ」
そう返すも、心の中が揺れていることは一目瞭然で。
「その、………………………私、アドラー様が思っているよりずっと、アドラー様のことが、」
そしてそこで詰まる。
俺のことをそこまで嫌いだったのだろうか。本当に、ライラからその言葉を聞いたら、俺は立ち直れない。
「……す、好きですよ?」
励ましだとわかっていても――けれどその言葉も偽りのない本心からだということも理解していて――心の中にかかっていた靄が晴れていくのがわかった。
お読みいただきありがとうございます。これにて二年生編は終了となります。残すところあと五話ほどです。
移動するのは本棚の陰(笑) というかライラマジで何やってんの?いや学園に入学する頃にはフィリップのことなんて忘れてるんだろうけどさ。
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