番外編.フィリップ視点 おもしれー女
こ う い う キ ャ ラ お お い ん だ よ !
すみません。ただ、事実を的確に――あぅ。(自分にブーメラン)
「誠に僭越ながら、わ、わたくし、フィリップ様のことが好きなんです」
そう顔を真っ赤にして言う令嬢に、僕――いや、俺は溜息を隠せなかった。
震える睫毛、こちらを上目遣いで見つめてくるその姿は、男の100人中100人が可愛らしいと思うのだろう。残念ながらその100人の間に俺は含まれていないけれど。
「ごめんね、僕、今は恋愛をするつもりがないんだ」
今は、じゃなくてずっと、だけどな――そう心の中で付け足しながら、俺は足早にその場を去る。ただでさえ忙しい貴重な休み時間に、呼び出して告白などをする令嬢の神経を疑うが、侯爵家の令嬢なので無下にするわけにもいかなかった。その全てが煩わしい。
はぁ、と、人生何回目になるかもわからない溜息を吐きながら、俺は教室に戻った。
「し、失礼します」
先生に頼んでおいた資料が届く。誰かに運んでもらっていたらしい。声から女子生徒であるということがわかって、俺は誰にも聞こえないようにまた溜息を吐いた。
と、こちらに向かってきたことで、その人物がどこの誰か分かった。
アドラーの婚約者――メルヴィル公爵家の令嬢、ライラ・メルヴィル。
前まで馬鹿な我儘令嬢だったが、最近急に大人しくなったとのことで、何か企んでいるのではないかと密かに俺が自分の中の要注意人物リストに載せている人物だ。
「やぁ、荷物はそこに置いておいてね……。…………君は、アドラーの婚約者の……?」
「あら、フィリップ王子、ごきげんよう。アドラー様にはいつもお世話になっておりますわ」
このくらいなら演技でもできる。そう思いながら俺は、注意深くこの女を観察する。
「やっぱりそうですか。良かったです。……いえいえ、こちらこそ、いつもアドラーがお世話になっております」
そう言って俺は微笑む。けれどその女――弟のアドラーの婚約者、ライラは、頬を赤く染めるどころか少し顔をしかめてこちらを見て、笑みを深める。
……ほお?
俺の笑みに顔を赤くしないなんて母上くらいだ。変わったという噂は本当のようで、面白くなりそうな展開に俺は思わず小さく笑う。
「あら。それは嬉しい限りですわね。………………失礼ですが、アドラー様とフィリップ王子に、溝が感じられるのはわたくしの気のせいでしょうか?」
図星だった。確かに俺とアドラーには、いろいろな事情がある。
しかし、それを今までの一瞬で察し、しかも堂々と口にできるとは。
「ふぅん?」
そして俺はニヤリと笑う。
「おもしれー女」
毎日が少し面白くなるような気がした。
お読みいただきありがとうございます。明日はアドラー視点です。なかなか本編いきません。すみません。(なお、明日の番外編で、二年生編完結となります)
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