29話.結局フラグ回収はするわけですよ
はい。転生してから早1年と10か月。もうすぐ3年生になるなぁとしみじみ実感する季節になってきた今日、私は先生にお手伝いを頼まれていた。
……はぁ、まぁいいけどさ。なんで私が……と思わなくもないというかなんというか。たくさんいる生徒の中で、なぜ私を選んだんだろう?とは思うよね。本当に何でだろう?私、悪役令嬢だから、「このわたくしが手伝いするなんて、そんなこと有り得ませんわよ!?勘違いしないでくださる!?図々しい」とか言うかもしれないのに。言わないけどさ。
そんな本当にどうでもいいことを考えながら、私は書類を届ける教室――3年生のSクラス(3年生になると、Aクラスよりも上位の、Sクラスというものが追加されるのだ)に向かっていた。
「し、失礼します」
Sクラスに入る。気分は小学生の時に、たまたま日直で、合法的に上級生のクラスに行った時だ。というかマジでそのまんま。
そういえば。3年生のSクラスといえば。
だいいちおうじのくらすじゃないですかね?
うん、衝撃のあまり全部ひらがなになってしまったけれど、本当にそうなのだ。今思い出したけど。しかも、第一王子で優秀なんだからその、「学級委員」とか、「クラス長」とかになっているわけで。
「やぁ、荷物はそこに置いておいてね……。…………君は、アドラーの婚約者の……?」
早速さわやかスマイルでこちらに来ましたよ。気づいてるし。やっぱり第一王子いたし。
「あら、フィリップ王子、ごきげんよう。アドラー様にはいつもお世話になっておりますわ」
「やっぱりそうですか。良かったです。……いえいえ、こちらこそ、いつもアドラーがお世話になっております」
第一王子の第一印象は、「丁寧」だった。なんというか、もう本当に、ひたすら「丁寧」。
丁寧に私に礼を言い、ふんわりと微笑むその顔は、超絶イケメンだった。女子生徒おろか男子生徒も、頬を染めて目を逸らしてしまうほど。
「あら。それは嬉しい限りですわね。………………失礼ですが、アドラー様とフィリップ王子に、溝が感じられるのはわたくしの気のせいでしょうか?」
なぜか、フィリップはアドラーのことをどこか他人事のように話す。もちろん雰囲気とかそういう不確かなもので判断したので、勘違いな可能性は高い。
けれどフィリップは、驚いたように目を見張って、今まで顔に描いていた優等生然とした表情を消し、代わりに肉食獣のような――恐らくこれが素だと思われる――表情を浮かべる。
「ふぅん?」
そして、私の瞳を覗き込み――
「おもしれー女」
本当にテンプレな――けれどまさか自分が言われるとは思っていなかった――その言葉を言って、ニヤリと笑った。
「アドラー様、先程、第一王子――フィリップ様とお会いしたのですけれど」
今は手伝いから帰って、いつもより少しだけ遅めのお昼ごはんを食べている。私はアドラーに、さっきフィリップに会ったことを話していた。
フィリップの名前が出るだけで、アドラーはひどく動揺していた。
見られたくなかった、痛いところを突かれたような顔をして、そのまま黙る。
長い長い沈黙のあと、アドラーはやっと返事をする。
「……………………………………………………そうか」
やっぱり何かあるんだろうか。この兄弟の関係には。
私に出来ることは少ないと思うけれど、それでも私に出来ることはしようと思った。
お読みいただきありがとうございます。明日は第一王子視点!!その次はアドラー視点です。
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