番外編.アーノルド視点 家の問題とメルヴィル公爵家の令嬢
次話を書こうとしたら、ふとそういえば、今日はアーノルド視点では……と思い、慌てて書く。
今日、もう一度更新するかもです。
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「あんたなんて産むんじゃなかった」
母のそんな冷たい声が脳裏をよぎる。
「私は忙しいんだ、わかってくれ」
優しい声で、けれど俺に決して構ってくれない父がそんなことを言う。
「跡取りは俺なんだから、お前は勉強なんてしなくていい。楽だよなぁ」
優秀な兄はそう言い、コーコラン家当主になるという選択肢すら与えてくれなかった。
学園に入学しても、俺の毎日は特に変わらない。
講師の授業を聞き、頷き、休み時間にぼーっと空を眺めるだけ。
勉学には励むけれど、あまり楽しいことなんてない。たとえAクラスに上がったとしても、それは変わらないはずだ。
……そう、思っていた。
けれど、メルヴィル公爵家の令嬢と曲がり角でぶつかってから(物理)、楽しいと思えることが少しずつ増えていく。
昼休みに身分差関係なくただしゃべって笑うだけの時間でも、大切に思えるようになった。
Aクラスに上がるのが意味のある行為だと思い、努力し、上がって、努力し報われる喜びを知った。
他愛無い毎日に浮かれていて、俺は家のことを忘れていた。
ある日の放課後、家に帰ると、その侯爵家の割には豪華な屋敷の中から皿や机、アクセサリーが飛んできた。
母の怒鳴り声が聞こえて、俺は無意識に身を竦める。幼少期から聞かされてきた、碌な思い出のない母の声は、トラウマになっているのかもしれなかった。
「もうこんな家、出ていくわ!あんたとは離縁よ!」
「ああ、勝手に出ていけ!穀潰しがいなくなってありがたい!オースティンは私が育てる!」
普段温厚な父が怒鳴っている。
このままでは離縁しかねないけれど、俺は特に何も思わない。いい年をした2人の親の争いを見ても、興味は湧かない。
けれど、その争いの中に、一言たりとも自分の名前が出てこなくて、出てくるのは兄であるオースティンの名前だけで、俺は自分がこんなにも必要とされていないのかと思いさすがに少し寂しくなった。
その夜は眠れなかった。
翌朝になっても、気分は浮上しない。
「コーコラン様、何かありました?」
さすがに俺を見かねて、普段メルヴィル公爵令嬢に気遣いの在庫を使い切っているスコット男爵令嬢が声をかけた。
だが俺は返事をしない。たとえ少ない気を遣ってくれたとしても、それでもいつものように返事ができるような気分じゃなかった。
「コーコランさん」
メルヴィル公爵令嬢に話しかけられる。
身分が上であるメルヴィル公爵令嬢に話しかけられても、俺は返事をしない。どこか行動が子供化しているのは、きっと心のどこかに構ってほしいという気持ちがあるからだろう。
「まぁ、メルヴィル公爵家の令嬢である私の言葉に返事をしないなんて、何様ですの?少しこちらに来て下さらない?」
一向に返事をしない俺に、苛々してきたのかメルヴィル公爵令嬢が強引に俺の腕を引っ張り、皆がいない場所へと連れ出した。
キャラじゃない。まずそう思った。彼女はそんな、権力をかさにするような人ではなかったはずだ。
隣にいる彼女の婚約者、アドラー王子も目を瞠っている。
「コーコランさん、空気がまずくなるのでそんな暗い雰囲気をまとわないで下さいません?」
「……驚いた。正論や綺麗事は言わないんだな」
思わず本音が口から出てしまう。
「だって、そんなこと言われても嬉しくないし、むしろ気に障るでしょう?さっさと元気になってくれた方が早いです」
そうまっすぐこちらを見つめる瞳に、確かな意思が感じられて、俺は目を伏せる。
心の中では、いろいろな感情が、渦のようにぐるぐると回っていた。
「……………………なんか、お前を見ていると、俺の悩んでいることが小さく思えるな」
それが、俺の出した結論だった。
「それはそれは。ありがとうございます?というかさっきから失礼ではありません?わたくしが憎まれ役を買ってあげているのですよ?」
本当に、何でもないような顔をしていながらも偉大な奴だ。本当に、心からそう思った。
「確かにな。婚約者様が発狂しそうだ」
「……?」
その言葉の意味はわかっていないようだった。
「いくらコーコラン侯爵令息が落ち込んでいるからって、ライラがわざわざ言う必要ないだろう!?」
「メルヴィル公爵家の恥だ。なぜわざわざあんな手段に出た!?」
「ユルセナイ……ライラサマトフタリキリ……ナグサメ……ワタシモオチコメバヨカッタ……アア……」
皆メルヴィル公爵令嬢のことを想いすぎていて怖いと思った。
まぁ、俺も今日からその中に加わるつもりだけれども。
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