番外編.アドラー視点 嫉妬
アドラー……このヘタレッ!
「アドラー王子、現地集合ではなかったでしょうか」
ライラの義兄――アイラが訝しげに言った。何を隠そう、俺は現地集合なのを知っていてわざとライラの屋敷に来ていた。
「……え?あ、あ。そうだった!すみません、間違えたみたいで」
一応純粋な青年を演じるが、ライラやアイラにはバレているに違いない。
それでもいいのだ。ライラと、最近ライラに興味と好意を持ち始めているアイラを30分間も馬車の中に閉じ込めるなんて、考えるだけでも嫌になる。
◇◇◇◇◇
「ライラ様!少し遅かったですね――………………………は?」
ライラを笑顔で迎えたマリーは(ライラ談義で親しくなり、いろいろ面倒なので呼ぶことになった)、俺の存在を見て固まった。
「アドラー様、あとで少しこちらに来てくださいません?」
その瞳には俺へのメラメラとした嫉妬の炎が燃えていて、俺は思わず後退りする。
「ん?あ、あぁ」
「アドラー様、あれはなんです?なぜライラ様と一緒に来ているのですわたしはまだ義兄様だから許したというのに抜け駆けなんて許せませんわたしだって乗りたかったです誘ってくれたらよかったのに本当にこれだからみかけは俺様のヘタレ独占欲強め王子は」
いろいろ不敬で、歯に衣着せぬ物言いだが、2人きりだし、この程度ならもう許せる間柄というか、慣れているというか。
そして、「みかけは俺様のヘタレ独占欲強め王子」が心に刺さる。
「おい、やめてくれ……。『みかけは俺様のヘタレ独占欲強め王子』とか、不敬罪に問われるぞ」
「アドラー様はそんなことしないでしょう?それに、『みかけは俺様のヘタレ独占欲強め王子』に、ダメージが入ってるんですね……。思い当たることがおありで?」
「……」
俺は黙った。
「まぁ、ライラ様。それはどのような味なのですか?」
マリーがそう聞く。俺が聞きたかったことを、と恨みがましく睨むと、マリーはいたずら大成功☆とばかりに子供らしく微笑んだ。
「食べてみればわかりますよ」
なんと、ライラはマリーに自分の弁当のおかずをあげたのだ。それなら俺も、と思ったが、なんとなくマリーの後というのが気に食わなくて、俺は黙る。
「ミサにはこれね」
「ライラ、俺にもくれ」
「……」
ジャーディン子爵令嬢、メルヴィル公爵令息、コーコラン侯爵令息が次々とライラの弁当のおかずをゲットしている。
俺が全く口を挟めず、しかも存在を忘れられていることに無性に腹が立って、あることを思いつき、俺はライラの名を呼ぶ。
「ライラ」
「っ」
つい、独占欲が爆発して、キスをしてしまった。
…………気持ち悪いと思われていないだろうか。……いや、確実に思われている。
最近毎日そのことを思い、胃を痛めている。
会ってもどこかよそよそしいし、不意打ちで話しかけたら顔を赤くしてそそくさと逃げていく。
……なんて最低なことをしてしまったんだろう。
許可もなしに、皆の前で勝手にキスをしてしまったあの時の自分を殴って刻みつけたい。
……はぁ。
お読みいただきありがとうございます。俺様とは本当に名ばかりなヘタレ王子様。大丈夫、こんなのシリアスじゃない。普通に仲直りするので大丈夫。
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