番外編.マリー視点 貴女は前も(2)
今回で四万字!!
いぇ――い、あとちょっとで100ptだ♪
それから一か月ほどが経過した春休み、わたしはライラ様と、ミサ様、殿下との勉強会に、持っていける資料はないかと、書庫――いいや本棚でちょうどいいくらいだが――の中の資料を、片っ端から探していた。
……まあ、と言っても、貧乏な貴族である我が家に、公爵家や王家に勝るような資料なんてないと思うけれど。
それでも、一応確認しておく。男爵家ならではの資料も見つかるかもしれない。
「勉強内容は……聖女様について、だ。ここの辺りかな?」
聖女様についての資料――一つだけあった。内容を見てみる。古びた資料には、わたしでも知っているような簡単なことしか書かれていなかった。
「なんだ、これなら借りた方がいいよね?…………………………ん?」
わたしががっかりして資料を戻そうとした際に、真っ白な――そう、まるで誰にも見られていないような紙が、ぱらぱらとわたしの足元に落ちてきた。どうやらこの資料にはさまれていたらしい。
「何だろう?」
中を開いて見てみる。そこには、それはそれは綺麗な字で文が書かれていた。
『わたしの名前は、ミランダ・スコット。スコット公爵家の令嬢です。……あぁ、男爵家に没落したのでした。あなたが罪を犯し没落した公爵家の子孫としてレッテルを貼られているとしたら、それはわたしの醜聞のせいです。わたしが罪を犯したのですから。深くお詫び申し上げます。』
最初から意味がわからない。
公爵家?没落?
わたしの家は男爵家だ。前に公爵家だったという話も聞いたことがないし、そもそも罪を犯したってなんだろう。ミランダ・スコット……見たことも聞いたこともない名前だ。
『わたしは、父親の――スコット公爵の妾の子でした。正妻からは邪険に扱われ、家には居場所がなく、愛された記憶なんてもちろんありません。
そんなわたしは、いつも心のどこかで愛されたいと思っていました。愛されるはずなんてないのに、それでもわたしは愛を求めてしまったんです。その気持ちがあったことが、わたしの行動に深く広く影響を与えてしまいます。
わたしはいい子になれば愛されるかもしれないと思いました。魔力量をあげることも勉強で一番を獲ることも、聖女になりたいと思ったこともその気持ちからです。
不作を救い、孤児を助け、その魔力を国のために捧げる聖女こそが、一番の成果で”いい子”でしょう?』
手紙の向こうの――ミランダさんの悲しげな笑みが見えた気がした。
『わたしは聖女候補になりました。自分で言うのもなんですが、魔力量も実力も、光の属性もあり、次期聖女は確定と言われていました。けれど、わたしは聖女になれなかったんです。』
光の属性が聖女の条件の中で優先順位が高いということは、有名な話だ。おまけに公爵家だったのに、なぜ聖女になれなかったんだろう。
『わたしには婚約者がいました。第一王子です。その第一王子――アランは、わたしのことなんてほったらかしで男爵令嬢に現を抜かしていました。
その男爵令嬢は、家族から愛されていて――そして、”聖”の属性を持っていました。
つまりその男爵令嬢が、聖女になったんです。』
”聖”の属性――光の属性以上に有名で、光の属性以上に聖女の条件の中で優先順位が高い、伝説にもなっている属性。
『わたしはその男爵令嬢が許せませんでした。愛も、人の婚約者の心も、”聖”の属性も――わたしの欲しかった全てを持った彼女のことが、許せませんでした。
だから、いじめたんです。彼女のことを、いじめてしまったんです。
後日わたしはいじめの罪を問われ、処刑が――そう、明日に、決行されます。
十八歳という短い人生です。意味なんてないような人生でしたから、心残りなんてほとんどありませんが――一つだけ、一つだけあるんです。今外を歩けない状態のわたしが叶えられない、心残りが。それを、あなたには叶えて欲しいんです。我儘なお願いだと理解していますが、叶えてもらえないでしょうか。』
心残りって、何だろうか。わたしの出来る範囲であれば、叶えたい。
『わたしは学園でも孤立していました。
ところが、一人だけ、昔と変わらずわたしに話しかけてくれる人がいたんです。それは、幼馴染の公爵令嬢でした。ローズ……ローズ・メルヴィル公爵令嬢です。
我が家とは対立関係にあり、いつもわたしに張り合ってきました。
何かある度に、「今回こそは負けないわよ!!」と言ってわたしに張り合い、本気を出させてくれたり、「いじめとかつまらないことして、スコット公爵家も落ちたわね!」と言っていじめをやめさせようとしてくれたり……。周りが変わっても、彼女だけは変わりませんでした。いつも通り、わたしに接してくれました。
彼女の存在で、わたしは少し元気が出ました。……わたしのせいで男爵家の令嬢や令息になったあなたには厳しいかもしれませんが、もし話す機会があれば、メルヴィル公爵家の令嬢や令息に伝えておいて欲しいのです。
”ありがとうございました”
と。』
ライラ様……貴女は、貴女の祖先は、いつも救ってくれるのですね。
そう思ったわたしの目には、涙が浮かんでいた。
本当に、ありがとうございました、ライラ様、ローズ様。わたしはもう一度、誰もいない書庫で静かに頭を下げた。
完全においてかれたって人、手挙げろ♪いち、にぃ、さん、しぃ……はい、すみません。何も読んでいない人にはわけわかめ(古い)ですよね!!えぇ、すみません!
詳しいことは、『悪役令嬢は断頭台で、生まれて初めて微笑んだ』(https://ncode.syosetu.com/n8471hb/)を読んでから感想欄で言っていただけると……(あけすけな下心)
はい、お読みいただきありがとうございます。すみません、明日も番外編なんですよね。……ちょおおおおっと、そこのあなた、鈍器をおろして!(被害妄想)
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