8話.嵐の前の静けさだなんて思いたくもないです
ライラに転生してから5日、魔法学園に入学してからも4日。
入学式以降、特に何もなかった。いや……なぜかアドラーとは登下校いつも一緒だし、マリーはいつも朝「おはようございます」と「さようなら」の挨拶を欠かさずしてくる……してくれるけれど。それでも、特筆すべきことはそんなにない。平和な日常のはずなのに、私はなぜか「嵐の前の静けさ」という言葉を思い出していた。
「ライラ、準備できたか?」
「は、はい」
また、この時間が来た。皆様ご察しの通り、アドラー様とご一緒の下校タイムだ。
同じ馬車の中で、隣にいる推しと今日も他愛無い話をする。幸せだ。
……はぁ~~~~~~~~。相変わらず尊いです、サービスありがとうございますぅ~~~~~~。
ちょっとばかりキモくなってしまっていたかもしれないが、推しの前なのだ。少しくらい大目に見てほしい。
「……。と、ところで、2日後の、新入生入学祝いパーティー、楽しみだな?ラ、ライラは、どんなドレスを着るんだ?そ、その、ダンスのパートナーとか、決まってるのか?」
なぜか少し上ずった声に、いつもより少し赤くなっている顔でアドラーが言った。
…………………………は い ?
ちょ、ちょちょちょちょちょちょちょっと待って、意味わかんない!新入生入学祝いパーティーって、何よそれ、見たことも聞いたこともな――……あったわ。めっちゃあったわ。その、新入生入学祝いパーティーといえば、あくまつの出会い系&フラグオンパレードイベント、あの新入生入学祝いパーティーじゃない‼えぇ⁉無理無理無理無理無理無理無理無理、むーりー、だ――――――よ―――っ!あの、ライラがマリーちゃんに初接触して早速ワインかけたり、そのことでアドラーと接触したり、お兄様と出会ったり、本当に色々あるパーティーじゃん‼え、2日後?急すぎ。どうしよ?怪しまれるわけにもいかないし。
アドラーに向けていた笑顔がひきつっていくのを感じた。
「あらぁ、ドレスについては、当日のお楽しみということで。それに、パートナーなんて、婚約者であるアドラー様以外に有り得ないでしょう?」
私は公爵令嬢に相応しい、お淑やかかつ上品な、感情を悟らせない声でそう言うしかなかった。だいぶ私にもお嬢様らしさが身についてきたようだった。
あとでミラに聞くと、「お嬢様のドレスはもちろん、ネックレスやブレスレット、イヤリングなどのアクセサリーはそろえております。アクセサリーはお嬢様があんなに楽しそうに選んでいたのに、覚えていないのですか?」と言われた。え?ライラのアクセサリー?どんなのよ?というかもうパーティーでは壁の花になっとくしかない!
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