番外編.アドラー視点 ライラとの関係(3)
今回、アドラーは説明役に徹してもらいます。
「アドラー・ライルです。趣味は剣術です」
俺は自分の自己紹介を終えた。
自己紹介の番はどんどん回っていく。
俺がしたのは、何の変哲もない、型通りの自己紹介。自分の名前と、趣味と、あれば何か一言。皆そうした型に沿った自己紹介をしていったが、1人……いや、2人、常識破りな自己紹介をした人間がいた。
そう、俺の婚約者ことライラ・メルヴィルと、先程話題に挙がった(挙げた)生徒、マリー・スコットだ。
「ライラ・メルヴィルです。趣味は……特にないです。みんなと仲良くなりたいです。一年間よろしくお願いいたします」
おい!?ライラ!?
ライラは、規格外な……そう、貴族として有り得ないような自己紹介をした。……語彙力が無くてすまない。
まあ、最初の名前と趣味の自己紹介はまだいい。仮にも公爵家の令嬢が裁縫や園芸等の趣味の一つもないというのも問題な気もするが。
では、次。『みんなと仲良くなりたいです。』
……なれるのか?というか、なれることがあるのか?
皆はなれないから、そもそもそんな自己紹介思いつかないからしない。
では、そんな奴らの心にライラの言葉はどう映るか?
普通だと馬鹿にされるが、何しろ公爵令嬢だ。物凄く向上心の高く、聖女のように美しく綺麗な心の持ち主だと尊敬されるだろう。
実際、今朝の様子からするに、男爵令嬢や子爵令嬢、ましてや平民までライラは気にかけ同等に扱うのではないだろうか。
……俺の婚約者は、どこまで魅力的な人間なんだろうか。
こほん、そして、『一年間よろしくお願いいたします。』だ。
普通、なのか?まあ、比較的普通な感じの自己紹介だが、そもそも身分が下の貴族が公爵令嬢によろしくする機会がない。普通はしない。
そして滅茶苦茶ざわざわした。仕方ない。
「公爵家の方なのに……なんて素敵な心の持ち主なのかしら……」「ライラ・メルヴィル様……。響きまで素敵……」「お高くまとっている近づきにくい方だと噂されていたが……全然そんなことないじゃないか。むしろ、親しみやすい」
2つ目の声はさっき話題に挙がった生徒、男爵令嬢マリー・スコットの声だ。知らないわけがない。王位継承権を持っている者として、同学年……しかも、同じクラスになる貴族の名前と顔くらい覚えるのが義務――というのが父上、皇帝陛下の考えだ。
うん、まあとにかく、俺の婚約者の自己紹介はだいたいこんな感じだった。
まだまだ自己紹介は続く。
そして、2人目の、型破りな自己紹介をした生徒、マリー・スコットの番になった。
「マリー・スコットです。趣味はお菓子作りです。高貴な貴族のみなさまと仲良くできたらいいなと思っています(ぺこり)」
あ゛?
ああ、ライラの真似かと思って凄んでしまった。
『高貴な貴族』……それは、自分を下級貴族だと言っているようなものだ。彼女は男爵令嬢だから、貴族の中で一番低い身分だ。だが、ここはAクラス。本来身分の高い者達が集まるはずのこの場所で、下級貴族であるということを自分から言って、しかもこの場で二番目に身分の高い、反応が良かった公爵令嬢の自己紹介と同じような自己紹介をしていれば、尚更……色々な感情の標的になるだろう。
案の定――
「『高貴な』?」「メルヴィル様の自己紹介の反応が良かったからって真似するなんて」「そのような身分の低い者がなぜAクラスに?」「空気の1つも読めないなんて」
……これは、まずいことになった。
この中で一番身分の高い者としての責任感が俺を動かした。俺は、マリー・スコットをかばうように立とうとして――俺より先に行動を起こした人物に気が付き、また椅子に座り直した。
俺より先に行動を起こした人物は――俺の婚約者であるライラ・メルヴィル――は、嘲るような視線を俺たちに向け――格下を見下ろすような冷たい声で、皆に聞こえるように、言い放った。
「あら。今スコットさんのことを平民だと笑っている人は、そこまで人を笑える家格の人だったのかしら。さっき自己紹介してもらったのですが……アドラー様以外に私より身分が高い人がいたのかしら?知らなかったわ、身分を詐称している不届き者がいたなんて……。…………………………………………実家を潰されたいのかしら?」
それは、有無を言わせぬ迫力と威圧感、そしてはっきりとした軽蔑と侮辱がこもった言葉だった。
それは、男爵令嬢からすれば、まさに救いの言葉だった。
そして俺は、ライラのそんな堂々と自分の権力を使い男爵令嬢を庇う姿に、ただただ見惚れていた。
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