#70:カップルジュース
映画館デート回です。
「えっと、このジュースはどうしたのかしら?」
「あーこっちの方が安かったんですよね。これ一つと普通の一つとかでも良かったんですけど、流石に不公平かなと思って同じの二つにしました」
渡会は困惑したような表情を浮かべた。顔が少し赤いのは気のせいだろう。
「ええと、まさかこれを飲めってことかしら?」
「そうですね。私は先輩と飲むので、嫌なら一人で飲んでても構いませんよ」
「なっ!?貴方だけそんなことさせるわけないでしょう!?わ、分かったわよ、私も飲めばいいのでしょう」
「決まりですね」
小泉はニコニコしながらそう言う。カップル用のジュースを飲むしかないというわけか。え、俺はどちらのジュースを飲めばいいのだろうか。どっちを飲んでも睨まれそうな気がするんだけど。今から、俺の分のジュースを買いに行こう。
――そう思ったんだが、現実は非情だった。入場時間となってしまった。一応、まだ買いに行く時間は全然あるんだけど、俺は小泉と腕を組まされるような状態でゲートの方へと連れられているので、買いに行くことができなかった。
受付で待っている間、周囲に並んでいる人たちが俺たちのことをチラチラと見てきた。渡会も小泉も性格に難はあるんだけど、美少女ではあるからな。どこにでもいるであろう男子高校生が美少女二人と恋愛映画を見に来ているわけだ。おまけに、渡会が持っているプレートにはカップル用のジュースが二つ。注目を浴びないほうが難しいだろう。
受付でチケット渡した後、俺たちは映画を見る部屋へと移動した。様々な映画が同時に上映されているので、間違った部屋に入らないように、表示を見ながら入る。
受付の時には注目されていたけど、スクリーンのある部屋へ移動すると周りから注目されることはなかった。映画開始前とは言え、普通の部屋に比べれば少し暗いからだろうか。俺たちの席は前よりの方だった。最前列ではないが、前から5列目くらいの位置だ。そこに、小泉、俺、渡会の順番で座る。そして、俺の両脇に問題のジュースが置かれた。
「これって俺はどっちのジュースを飲めばいいんだ?」
「渡会先輩のがオレンジジュースで私のがコーラですね。飲みたいときに飲みたい方をのんでください。それでいいんですよね、渡会先輩」
「ええ。月田君、遠慮しないで私のやつ飲んでいいわ」
渡会は俯きながらそう言った。何となく小泉に言わされている感じがするが、飲んだら二人きりになった時に、蔑んだ目で見られたりしないだろうか。
そして時間が経ち、映画が始まった。恋愛映画ということもあって、見ていてドキドキさせられるシーンがある。目の前にあるポテトをほおばりながら映画を見ていると唐突に喉が渇いた。そして無意識にジュースがある右側に手を伸ばした。すると、何かに当たった感触がした。そちらの方向を見るとちょうどジュースを取ろうとしていた渡会と被ってしまったようだ。
「あ、悪い」
「気にしないでいいわ」
「小泉の方をもらうから……」
俺がそう言おうとすると、彼女は腕を掴んだ。そして、俺の顔に手を近づけて内緒話をするような姿勢になった。
「えっと、私は気にしないから一緒に飲みましょう?」
いや、流石にそれはと思っていると反対側でジュースを片手に持ち、暗くて表情は分からないが明らかにこちらを向いている小泉の姿があった。
「わ、分かった」
「……それじゃあ、私が持つから、そっちのストローを使って頂戴?」
「……ああ」
渡会が紙コップを持つと、俺の方に寄せてきた。そして、俺たちはハート形のストローにそれぞれ口を加えた。お互いに同じジュースを飲んでいることもあり、暗いのだがお互いの顔が見える。それが思った以上に近い距離であることに気づき、俺は少し恥ずかしくなった。
結局その後、渡会の方からジュースを貰おうとしてもドキドキしてしまって何故か恥ずかしかったので、小泉の方から貰うことにした。小泉にも同じことをさせられたんだけど、やはり少しドキドキした。
そして恋愛映画も俺のことをドキドキさせに来るから、心臓に悪い。結局映画が終わった後はドキドキしすぎてほとんどまともに話すことができなかった。




