#48:神無月家
美姫ちゃんの家は大きいと作中で述べていましたが、具体的にどんなものがあるのかについて今回から少しでも掘り下げていければいいなと思っていたりします。
「あ、来たわね」
「遅いですよー先輩」
「悪い悪い」
「ごめんね。楽しみにしてたら昨日眠れなくなっちゃって」
「あはは、天音ちゃんは毎年そうだよね」
天音は長期休みで、お泊り会をする前日は毎回、いつもこんな感じだ。大体、俺が美姫に連れられて朝起こしに行くことが多い。幼馴染とはいえ、眠っている娘の部屋に天音のお母さんは通してくれてたけど、これが信頼ってやつなのだろうか。
ちなみに俺が天音と美姫の二人と付き合っていることを天音のお母さんは知っているし、影ながら応援してくれている。美姫の両親には彼女と付き合って以降会えてはいないんだけど。挨拶をした時も、美姫が家族には先に伝えてしまったらしい。今度会うことのできる機会があったら、その時は自分の口から伝えようとは思っている。
「うわ、本当に大きいんですね」
「チラッと見た程度だったからそれほど気にはしてなかったけれど、これから私たちここに入るのよね」
「ああ。まぁ、最初は慣れないよな」
「私たちは小さいころから何度もお邪魔させてもらってるし、初めて来たときも子供だったから緊張とかはなかったんだけどねー」
「ここが美姫ちゃんの家じゃなかったら、入るのためらっちゃうよ」
天音のいうことはよく分かる。幼い頃からお邪魔させてもらっている美姫の家だからこそ、これほど大きくても何も思わないけど他の庭付きの豪邸に招待なんかされても尻込みしてしまいそうである。
インターフォンを鳴らすと、反応があった。すぐに、中からメイドさんが出てきた。
「うわぁ、凄いです先輩本物のメイドさんですよ!?」
「確かに、実際に目にすることになるとは思ってもみなかったわ」
初めてメイドを見る渡会と小泉は、驚いた様子だった。まぁ、そりゃそういう反応になるよなぁ。
「そちらのお二方は初めてですよね?美姫様から仰せつかっております。迷うといけないので、私の後に着いてきてください」
「は、はいお願いします」
「お願いします」
そう言ってメイドさんの後に二人は続いて歩いた。俺たちも遅れないようにして彼女たちの後を歩く。俺たちは既に何回も来ているので迷うことはないんだけど、何しろ広いので大変だ。
「野菜とかも栽培されているんですね、先輩」
「ああ、美姫の両親がここで生活している間は癒されたいとかで作ったらしい」
「美姫ちゃんの両親って、大変そうだもんね」
「あはは超大規模グループの社長とその秘書ともなれば、私たちが想像できないくらい忙しいんだろうねー」
「後は美姫様の教育にもいいということで、小さい頃にはよく使われてもいました。今は美姫様はそれほど触れる機会はありませんが、それでも週に1度は顔を出してくださいます」
へぇ、それは少し意外だなぁ。彼女は俺たちといる間そんな話をしたことがない。俺たちの部屋で一緒にのんびりしたりゲームしたり、イチャイチャしたりしている時間が大多数を占めているので仕方ないのかもしれないけど、今度聞いてみようかな。
屋敷に入るとメイドや執事が一列に整列していた。そして中央には美姫が立っていた。
「ようこそ神無月家へ。歓迎します、渡会さん、小泉さん」
「こ、これはどうも丁寧にありがとうございます」
「どうもです、美姫先輩」
これは初めて訪れる人には、彼女が基本的に行っている行事だ。もちろん両親がいるときは彼女の両親が言うんだけど。
「あくまで、これは儀式的な物なので、それほど気負わなくて結構ですよ」
「そ、そうなのね」
「あ、皆さん。ご苦労様でした。各自持ち場に戻ってください」
美姫がそう言うと、彼らは散らばっていった。
「それではとりあえず客室に案内しますね。皆さんは私の部屋に近い場所にしておきましたので」




