#38:三人目の仮彼女
前話の最後のほう、誤字があったので修正しました。
「それより、みんなで何の話してたの?」
俺に抱き着いたまま、姉さんは俺の耳に息を当てるようにしながらそう言った。息を吹きかけるように声をかけられたため、俺の体が思わずビクッと反応した。
さっきまでの話は他の人に軽々しく聞かせられる話ではない。美姫と天音それから千春といった、俺のことを好きでいてくれる三人と俺だけの空間だからこそできた話だからね。――そう思っていると、美姫が俺の代わりに彼女の質問に答えた。
「天音ちゃんが正式に優也君の彼氏になりました」
「うん、やっと優君と付き合えた」
「なるほどなるほど。おめでとう、天音ちゃん」
あれ、おかしいな?俺が美姫と付き合っていることを知っているはずなのに、対して驚く様子を見せない。俺がそんなことを思っていると、姉さんはニヤニヤしながら俺の正面に立った。そして、俺のことを抱きしめてきた。
「なっ、姉さん!?」
「それじゃあ、次は私の番かな?」
「私の番って……どういうこと?」
「そんなの決まってるじゃん。優君の仮彼女にしてもらうってことだよ?」
「はぁ!?姉さんって俺のこと好きだったのか?」
俺がそう言うと、姉さんは少しシュンとした表情を浮かべた。
「えーこれでも結構アピールしてたと思うけどなぁ。好きって普通に言ったこともあるじゃん?」
「それはそうだけど……それは家族としての好きかと思って」
「家族として好きなのは普通そんなに言わないと思うけどなぁ。それに美姫ちゃんって言う彼女がいて、天音ちゃんがその隣にいる状況で手をつなごうなんて異性として好きじゃなきゃ言えないよ」
姉さんのその言葉に納得してしまった。まぁ確かにその通りだな。家族としての好きだったら、俺が美姫や天音といったあからさまに俺に好意を向けてきている彼女たちの前で手をつなごうとなんてしない。まぁ、俺はその二人の気持ちにさえ気づいていなかったわけですけど……ええ、そうですよ、鈍感ですよ。俺は誰に対してキレているのだろうか?
「本気で伝えようとしてなかった私も悪いけどね、まぁその時じゃなかったっていうのもあったけど」
「いや、まぁ確かに美姫や天音ほど大胆ではないけど」
あれ?ちょっと待て。何で姉さんは仮彼女のことを知っているんだ?天音と付き合ったとは言ったけど、普通なら美姫と別れて天音と付き合ったという思考にたどり着くはずだろう。それにその時じゃないってまさか。
「……姉さん?」
「うん、どうしたの優君?」
「姉さん仮彼女のこと最初から知ってたのか?」
状況証拠的にこれしか考えられない。これならば、天音と付き合ったことで驚かなかった理由も、次は自分の番と言った理由もその時じゃないと言った理由も全てが説明つく。すると姉さんは頬を指でかきながら少し困ったような表情をした。
「あちゃーバレちゃったかぁ」
「やっぱり知ってたのか?」
「うん、全部美姫ちゃんから聞かされてたもん」
「隠しててごめんなさい優也君」
美姫はそう言うと、申し訳なさそうな表情で俺のことを見てきた。
「えっと、明日香さんが優也君のことが好きなのは知っててそれで事前にハーレムについて話しちゃいました」
なるほどなぁ。美姫の性格から考えて、姉さんに言っているのはおかしいことではないだろう。美姫は何故か俺に彼女を増やさせようとする。詳しい意図を聞いても教えてくれないんだけど。
「優君聞いてるの?」
「な、何姉さん!?」
「優君が私を仮彼女にしてくれないとついうっかり、学校で口を滑らしちゃうかもなぁ」
姉さんはそう言ってきた。もはや半分脅しに近いだろう。姉さんのことは嫌いでないし、家族としては少し癖のある性格ではあるけど好きではある。見た目も美人ではあるんだけど、天音の時と状況は同じだ。近しいと思っていた女の子に急に告白されると、自分の気持ちが分からなくなるという奴だ。
でもまぁ、本当に姉さんに口を滑らしてもまずいし家族としては好きなので仮彼女になることを認めた。……いや認めさせられたのか?




