#247:茜は美姫に負けない
「えへへ~先輩、次は何処に行きますか?」
茜は体を寄せながら幸せそうに言った。反対側では俺と手をつないでいる亜里沙が微笑みながら見てきていた。
「あ、亜里沙?」
「いえ。本当に仲がいいんですね、お二人は」
「もちろんです。私と先輩の仲を舐めないでよね」
「まぁ、からかってこなければな」
「……な、なるほど」
俺との言葉に、亜里沙は納得したように言った。茜はこれから何をしようかと脳内で考えているらしく、俺たちの声は聞こえていない様子だった。
「亜里沙、何処か行きたいところはある?」
「そうですね。私は月田先輩と一緒にいられればそれで」
うん、めっちゃ健気だった。どうしようかと考えていると、突然お腹の音が鳴ったのが聞こえた。音のする方を見るとお腹を抱えながら恥ずかしそうにしている茜の姿があった。そんな彼女の様子に、俺と亜里沙が吹き出して笑った。
「ななな。何で笑ってるんですか!」
「急だったからビックリしただけだよ。それよりも、もうこんな時間なのか」
スマホを取り出して時間を見ると12時を過ぎていた。
「じゃあ先輩。お昼にしましょー!」
「そうだな。亜里沙も、それでいいか?」
「は、はい」
「ま、まさか。あんなことをしているなんて」
お昼を食べ終えた後、亜里沙は俺たちのことをチラチラと見ながら恥ずかしそうにしていた。原因はポテトをお互い食べさせ会っていたことだとは思うんだけど。
「いつも食べさせあったりするんですか?」
「まぁ、そうだな。茜もそうだけど、天音とかが積極的に食べさせようとしてくるかな」
「あー東条先輩ですか。確かに、そんなイメージあるかもしれません」
俺の言葉に納得したように、亜里沙は言った。
「亜里沙もやれば良かったのに~」
「いやいや。流石に恥ずかしいよ!?」
亜里沙は全力で横に首を振りながら言った。確かにあれ外でやるとなると相当恥ずかしいんだよな。何回も食べさせ合うことを経験している俺でも、未だに恥ずかしさがなくなることはない。
美姫や天音とは食べさせ合いを、付き合う前は何気なくしていたこともあった。だけど、その当時は、美姫に関しては好きな人とイチャイチャできるならそれはそれで良かったし、天音もいたからそれほどドキドキさせずに済んでいた。
今では天音も彼女であり、当時のように彼女をただの幼馴染として認識することはもはや不可能なので、三人で食べさせ合いをするとなれば、美姫と二人きりで食べさせ合いするよりも恥ずかしくなることは間違いないだろう。
「何か茜ちゃん凄いね?」
「そうかな?むしろこれくらいやらないと勝てないからね」
「勝てない?」
茜の言葉に、亜里沙は首を傾げた。そして俺のことを見てくるが、俺も彼女の言いたいことが分からなかった。
「え。そんなの、美姫先輩と天音先輩に勝つことに決まってるじゃん。私は先輩の一番になることを諦めたわけじゃないってことですよ。だから、覚悟しててくださいね。先輩」
「う、うん」
茜の圧に押されるようにして、俺は頷いた。
「でもな。月田先輩と神無月先輩お似合いだからなー」
「なっ!?亜里沙。応援してよ、友達を」
「うーん。勉強会に誘ってくれたのも、神無月先輩だからなー」
「ぐぬぬ……」
亜里沙にそう言われて、茜は悔しそうな表情を浮かべていた。そして何かを思いついたような表情を浮かべると、より一層俺との距離を縮めてきた。
「ふふん。たとえ色々なことで負けていたとしても、先輩を一番惚れさせればいいんです」
「それじゃあ私は好きになってもらえるように」
二人の後輩美少女に抱きつかれて、俺の心臓はバクバクと音を鳴らしていた。




