#240:小百合の気持ち
俺たちはその後、お店を回った。そしてあっという間に学園祭は終わりの時を迎えた。月曜日は振替となり、火曜日に片付けの時間があるので、今日はそのまま解散になる。
「お兄さーん!」
「お待ちしておりましたの」
梨沙と南園さんは俺たちを見ると、手を振っていた。隣には、香音と北園さんもいる。皆は明日学校があるんだけど、折角こっちに遊びに来たので皆でご飯を食べるらしい。
さすがにこの人数で家に行くわけにもいかないので、美姫に事前に頼んでおいた。彼女たちが来ると分かった時点で、一緒に夕ご飯を食べるという話になっていた。
「神無月様のお家に再び舞い戻ってきましたわ」
「ふふふ、喜んでもらえて何よりです」
「神無月様……勿論ですわ」
「お兄様、小百合お姉様は大丈夫なんですか」
「あー、ほっといていいんじゃないか」
香音は呆れたような表情を浮かべた後、俺のことを見ながらそう聞いてきた。香音には言えないけど、俺に告白する前の天音に対する香音の態度もあんな感じだったぞ。今はその感情が俺と天音の二人に分散していることで、以前の様に暴走することは少なくなっているけど。
「お兄さん。ぎゅーっです」
「私も。ぎゅっとしますの」
先ほどから、梨沙と南園さんが俺に抱きついている。校門を出て少し歩いた瞬間に、二人は息を合わせたかのように同じタイミングで腕を組んできた。どうやら二人とも限界だったらしく、人がいないことを確認する様子もなかった。一応美姫が確認してくれており、彼女が止めなかったことから大丈夫なんだろう。
南園さん――美乃梨の、俺に対する好意は既に本人から聞いている。だから俺としてもはっきりと答えを出したいところなんだけど、彼女から返事は待ってほしいと言われているので微妙な関係が出来上がっているわけだ。
「相変わらず、モテますわね」
「まぁ月田くんらしいんじゃないかしら?」
北園さんの言葉に、瑠璃が呆れながらそう言った。そんな彼女を見て、南園さんはキョトンとした表情を浮かべた。
「あれ?小百合も確か、月田様のことを気になっているって言っていましたのに?混ざらなくてよろしいんですの?」
「なっ!?そ、それは……一番気が楽な異性だと言っただけですわ」
北園さんは顔を真っ赤にさせながらそう言った。恋愛好きな南園さんがそんな彼女を見逃すはずもなく、俺から離れると彼女に近づいて、頬を指でつんつんと突きながらからかっていた。
「香音ちゃんみたいだね」
「お、お姉様!?私の場合は元々お兄様が好きだった照れ隠しですけど、彼女の場合は初めは美姫お姉様のことしか思っていないようですから、また違うと思いますけど」
天音に突然名指しで似ていると言われた香音は、顔を赤くさせて動揺していた。しかし、すぐに冷静さを取り戻すと、自身と北園さんの違いを説明していた。
「そんなことを一々話さなくていいですわ!!」
そんな香音に対して、北園さんは顔を真っ赤にさせながら抗議していた。
「ふふっ」
「神無月様、助けてほしいですわ」
北園さんは笑顔で見守る美姫に助けを求めた。
「私は優也君と付き合っても文句は言いませんよ?貴方が本気で好きなのであれば、問題はないでしょう」
「……話の腰を折るようで悪いのだけれど、もう美姫さんの家の前に着いたから話はここまでにしましょう?あまりからかいすぎるのも良くないと思うのだけれど」
美姫の言葉に北園さんが答える前に、瑠璃が言った。それに瑠璃が同意したことで、北園さんの話は終わりになった。




