#238:昔遊び
「あ。お兄さん遅いですよー!」
目的の教室の前に行くと、既に皆は揃っていた。梨沙は俺たちを見つけると、大きく手を振りながら俺のことを呼んだ。
「悪い悪い」
「ごめんなさい。遅れました」
「優也君たちも来たことですから、早速中に入ってみましょうか」
美姫を先頭にして、俺たちは教室の中へと入った。
教室の中には、様々な体験ブースがあった。学園祭は人がごった返すほど溢れており、教室にもたくさんの人がいるんだけど、この教室は比較的人も少なかった。
「何して遊ばれますか?」
店員さん……いや部活で活動しているから、部員かな?その部員の人が俺たちにそう聞いてきた。
「私この百人一首というものがやりたいですの!」
「確かにこれなら皆で出来ると思うので良いと思いますわ」
南園さんの意見に北園さんが賛成した。あ、百人一首か。一人滅茶苦茶強い人がいるんだよな。
「どうかしましたか、お兄様、お姉様?」
「いや、何でもない」
「な、何でもないよ。香音ちゃん」
そんな表情が香音に伝わったのか、彼女は俺と天音に不思議そうに問いかけてきた。俺と天音は目を合わせると、目線を逸らしてごまかした。まぁ、とりあえずやってみればわかるだろう。
部員の人が句を読んでくれることになった。俺たちは札を並べると、その前に座った。そしてついに、百人一首をやる時が来た。
「あ、あの……美姫お姉様強すぎませんか?」
香音が息を切らしながらそう言った。うん、まぁこうなると思ってた。100枚の中から、90枚分を読み上げるというルールで行った。しかし、美姫はその内85枚すべてを取ってしまった。残りは2枚が俺、亜里沙と香音と北園さんが一枚ずつという結果に終わった。
「美姫お姉さん手札に書かれてない内に取るのは反則ですよ!そうですよね、お兄さん!」
梨沙は俺にそう抗議してきたんだけど、そういうゲームだからな。美姫は幼い頃から色々なことを勉強してきており、百人一首も全て覚えてしまったらしい。
「四人でチームを組んでも勝てませんよね。でも神無月先輩、凄いです」
亜里沙は困ったように、でも尊敬するように言った。
「次は輪投げで勝負ですの。月田さん、勝ったほうが何でも一つ言うことを聞くっていう勝負はどうですの?」
「なっ!?それなら私も参加します」
南園さんの提案に俺が頷く前に、梨沙が参加すると言い始めてしまった。天音が参加すると言い始めたことで止められる雰囲気ではなくなり、俺も参加することになった。
「えっと、美乃梨も参加するんですの?」
「そうですわね。神無月様に色々聞いてもらえるチャンスはないですわ」
若干一名ほど、俺以外に勝者の権利を行使しようとしている人がいるけど、俺と彼女以外の女子メンバーは皆俺に使うそうだ。香音は最後まで俺に使うか、天音に使うかは悩んでいたけど、結局勝ったら俺に権利を行使するらしい。
しかしこれだと俺が条件的に不利なので、俺が勝ったら特別に全員に一つお願いを出来るらしい。
「それじゃあ、行くよ!えいっ」
天音が投げた輪っかは見事に棒の中心をとらえていた。天音は運動神経がいいので、こういったものは得意らしい。外した人はその時点で脱落していき、最後まで残った人が勝利するというルールになった。
順番に輪っかを投げて行ったが、皆意外と輪っかを通すことが出来ていた。結構長く遊んでいたけど、徐々に脱落していった。
そして天音と美姫の二人が残った。




