#21:瑠璃との授業
瑠璃は天才ですね。
美姫と瑠璃は同じくらい天才だったりします。
あの後少し経つと茜は、自身の教室へと帰って行った。毎日のように俺のことを揶揄いにきて、毎回慌てて教室に戻るくらいなら来なければいいと思うんだけどなぁ。彼女曰く、HRには毎回間に合っているみたいだけど。
いつも俺と一緒にいる美姫たちだが、席は残念ながら隣ではない。何と俺は一番左の列窓側の最後尾という素晴らしい席を獲得してしまっていたのだ。かと言って授業中に寝たりすることはないんだけど、単純にここが落ち着くのだ。普段美姫たちといると嫉妬の念がすごいからな。この位置であれば授業中に後ろを向いてくる奴なんて数人くらいしかいないし、美姫たちと席が離れているため落ち着ける時間なのだ。
ただ、この布陣も完璧なものではない。
「授業中に何をぼうっとしているのかしら?」
俺の隣に座る少女は、俺にしか聞こえないほどの小さな声でそう言った。しかも、先生は黒板に板書をしている最中である。
「別に、ちょっと考え事をしていただけだよ」
「そう。無様な姿をさらけ出す前に、何か悩みがあったら言うのよ?」
彼女はそう言うと、顔を黒板の方に向けて再びノートをとっていた。渡会は授業中に何かと俺にこうやって話しかけてくる。まぁ、罵倒が多いのだが偶に全然関係ない話を急に持ち出してくることもある。ペアで一緒に意見を交換したりする時なんかは、ここぞとばかりにその回数が増える。ただ、先生に当てられても完璧な回答が返せるのだから大したものだと思う。先生によってはその内で名指しで指してくる人もいるが、事前に彼女が要点をまとめた紙を見せてくれるので毎回助かっていたりする。
俺はチラッと横を見る。こうしてみると、渡会って美人なんだよな。俺に対して、いや俺が美姫や天音と三人で一緒にいることに対して罵倒を交えた文句を言ってきたりする。ただ罵倒もそれほど多いわけではないし、多少言葉はきつくても俺たちのことをしっかり考えてくれるからな。言葉は少し悪いけど、周りへの気遣いもできる。
さらに俺以外に、渡会が罵倒している様子はなく基本は頼れるクラス委員といった感じなので男女問わず人気が高かったりする。
そんなことを考えている間にどうやら、ペアで作業する時間となったらしい。渡会は机と椅子をこちらに移動させてきた。
「また考え事しているけど大丈夫なの?ただでさえ何もない脳みそでそんなに思い詰めると脳みそがおかしくなるわよ?」
「余計なお世話だわ」
「それで、やることは分かっているのかしら?」
「え、ああ。分かんない」
「でしょうね。あれだけ、上の空だったのだから。全く仕方ないわね。それじゃあ私が手取り足取り教えてあげるわよ」
渡会はそう言うと、肩と肩が接触する程の距離まで椅子を寄せてきた。やばい、こうして近くで見ると凄いドキドキする。いや、落ち着け俺。俺には美姫という彼女がいるじゃないか。
「ちゃんと聞いてる?」
「う、うん聞いてるよ」
辛うじて彼女がさしているところは分かっているので、黒板に書いてある問題と照らし合わせて考える。そして少し考えたうえで、俺は彼女に自身の意見を伝えた。
「いいんじゃないかしら。月田君にしては上出来よ。ただ、多分だけど……」
彼女はそう言うと、俺のノートの横に何かを書き足した。その内容を見ると、俺の意見に教科書の別の部分の内容を付け足してさらに詳しい説明にしてくれていた。最初の彼女の一言は余計だったけど、凄いとは思う。
「それじゃあ、この問題を……そうですね月田君お願いします」
「は、はい」
俺は彼女から意見を貰った方で答えた。先生も満足な答えだったようで、少し俺のことを褒めた後すぐに次の板書を始めた。
「ありがとな、渡会」
俺の意見みたいになってしまったので、俺は隣にいた彼女に少しばかりの謝罪の意味も含めてそう言った。
「別に。貴方の意見が悪かったら、私まで適当にやってると思われるじゃない。まぁ、貴方の意見も悪くはなかったと思うけれどね」
「それはどうも」
俺たちはそう言うと、お互いに照れくさくなり周りに聞こえない程の小さな声で笑いあった。




