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#217:世間話

 先生の話が終わった後、俺たちは教室の外へ出た。天音と瑠璃は先に俺の家に向かうことになり、俺と美姫は家の近くにあるスーパーマーケットへと向かった。




 俺が買い物カゴを持ち、反対側の手で美姫と手を繋いでいた。しばらく夏休みだったから、こんな感じで放課後に二人で買い物に来ることも無かったので、少しだけ懐かしさを覚えていた。


「というか、何で材料ほとんど切らしているんだ?」

「千春ちゃんが、どうせ私の家で生活するならいらないだろうって宿泊前に、持って来てくれたんですよね」


 美姫が申し訳なさそうにそう言った。


「いや。一か月もずっと泊めてもらえたんだから、こっちの方が申し訳ないわ」

「ふふ、気にしないでください。優也君のためですから。……それに私も、とても楽しかったですからね」


 美姫はそう言うと、微笑んで見せた。彼女の笑顔を見て、俺の体が熱を帯びていくのを感じた。


「えっと……まずは人参ですね」


 美姫はメモを見た後、そう呟くと人参を取って買い物かごに入れた。


 すると、向こうから見たことのあるおばさんが歩いてきた。彼女は俺たちのことを見ると、声をかけた。


「あら、まぁ。お久しぶりねぇ」

「あ、奥様。お久しぶりです」

「お久しぶりです」


 この人は近所に住んでいて、幼い頃よく話しかけてくれた人だ。


「天音ちゃんと明日香ちゃんと千春ちゃんは別なのかい?」

「今日は別ですね」

「なるほど。手をつないじゃってさてはデートだね?」


 おばさんは俺たちが手を握っていると気づいたのか、まるで自分のことのように嬉しそうに語っていた。しかし少しだけかなそうな表情を浮かべた。


「幸せな二人にこんなことを言うのはあれかもしれないけど、彼女たちのことも大事にしてあげなね?昔っからの気を使わなくてもいい友達って、後から探そうとしても見つからないものだかららねぇ」


 おばさんがそう言うと、美姫はクスッと笑った。


「ふふ、大丈夫ですよ奥様。今日も、ここに来る直前までは一緒にいましたから。これからみんなで優也君の家で一緒にご飯を食べるんです」

「まぁ、そうかいそうかい」


 おばさんは驚いて、でも嬉しそうにそう言った。彼女としては、皆で仲良く過ごしてほしいらしい。


「それでは私たちはまだいろいろと材料を買わないといけないので、失礼しますね」

「し、失礼します」

「うん。困ったことがあったらいつでも相談してね」

「はい、ありがとうございます」


 おばさんは美姫の返事を聞くと、満足げに歩いて行った。


「みんなで仲良く……ですか」

「俺たち二人と、天音たちで別れて話もしないような仲になってほしくないってことだろうな。……まぁ俺が天音たちとも付き合っているなんて、想像もしていないだろうけどな」

「……そう考えるとやっぱり、私は今の現状が大好きです」

「え?」


 突然そんなことを言った美姫に対して、俺は疑問を浮かべた。


「あ、えっと。皆で仲良く。この場合は友人じゃなくて、皆で優也君の彼女になるっていう意味ですけど」

「う、うん?」

「やっぱり、天音ちゃんと優也君の彼女の座を取り合って、勝てたとしてあの時屋上でみた天音ちゃんの涙を見続けなければいけないって考えると」


 ああ、そういえばそうだったな。俺が美姫に告白して、天音がそれを受け入れたとき彼女は泣いていたもんな。


「さてと、無くなった未来の可能性を追っても仕方ありません。早く材料を買って、千春ちゃんたちと合流しましょう」


 美姫はそう言うと、再びメモに視線を戻した。

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