#213:また会う日まで
「それじゃあ、またですの!」
「お世話になりましたわ」
「はい、お二人ともお気をつけて。またお会いしましょう」
翌朝、迎えが来た二人を、玄関まで皆で見送りに来ていた。北園さんはそれはもう悲しそうに美姫と涙ながらに握手をしていた。
同じ日の夕方、梨沙と香音も両親が迎えに来たので、帰ることになった。北園さんと南園さんは期間としてはあまり長くはなかったけど、梨沙と香音の二人は夏休み中にずっと美姫の家で一緒に生活していたから、しばらく会えなくなると思うと少し寂しいものがある。
「お兄様。私がいなくてもだらけないで過ごすんですよ!」
「後は美姫さんと天音さんとイチャイチャしすぎないでください」
梨沙は俺に詰め寄る様にしてそう言った。彼女たちとの関係も変わった。ただの可愛らしい子たちから、一転して愛おしい彼女にまで変わった。
天音や千春たちと付き合い始めたことを梨沙が知ったら、こうなるであろうことは予想できたけど、香音までが俺のことを好きだとは思っていなかった。
「お、お兄様。ま、また会いたいです」
香音はしおらしく、凄く寂しそうに言った。俺の隣には天音が立っていて、俺と目が合うと彼女はニコッと笑った。
「うんうん。二人ともすっかり仲良しを通り越して、付き合うことになって嬉しいよ。香音ちゃん、お勉強頑張ってね」
「お姉様……はい!必ずお姉様たちの高校に入れるように頑張ります」
香音はそう言うと、梨沙の手を取って二人で仲良く送迎者の方へと歩いて行った。
「行っちゃったね」
「ああ、寂しくなるな」
「そうね。それで……貴方は帰らないのかしら?」
瑠璃は茜を見て困ったようにそう言った。瑠璃は彼女の両親の不正を美姫に暴いてもらったことで、晴れて自由の身となり神無月家に居候しているが、茜は夏休みの間ほとんどずっとここにいた。
「確かに、両親は心配してないのかな?」
「うーん。仲の良い先輩に勉強を教えてもらうって言ってきたんで大丈夫ですよ」
「それって優君じゃないよね!?」
天音が焦ったようにそう言った。すると茜は首を横に振った。
「そうしたいのはやまやまですけど、流石に異性の先輩の家に転がり込んでいるなんて言えませんよ。言っても文句は言われないと思いますけど、からかわれること間違いなしです」
茜は体をぶるぶると震えさせながらそう言った。あの小悪魔な茜がと言いたいところだが、彼女は自信を女の子と認識させるために俺のことをからかう以外は、あんまりからかったりとかしないんだよな。
「それに、ここからだと電車に乗らなくていいんで、大幅に登校時間を短縮できるんですよね。だから私は、ここにしばらく生活します」
「私が言えた義理じゃないけれど、人を何日も泊めるのって結構大変なのよ?」
茜は瑠璃にそう言われると俺の方を見た。
「じゃあ、先輩の家に泊まります!」
「えっ!?」
茜の言葉に俺は驚いたが、それ以上に千春が驚いていた。
「だ、駄目です。家は私とお兄ちゃんのラブラブタイムですから!」
千春さん?ラブラブタイムって何ですか?初めて聞いたんですが。
「ラブラブタイムですか?」
美姫が驚いたような表情を浮かべた後、面白いものを見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべた。
「いや、美姫が思っているようなことは何もないからな?」
千春の妄言によって、誤解を解くのにしばらくの時間があった。結局、茜は学校が始まるまでに自宅に戻った。




