#210:友達
「あー一杯食べたー」
島田さんはお店を出る際に、満足そうにそう言っていた。
「それでこれからどうしましょうか?」
「うーん。私はまだまだ余裕だけど、葵君はもう結構きついでしょ?」
島田さんは葵の膝を見ながらそう言った。すると葵は、困った表情を浮かべながらも首を縦に振った。
「うん。じゃあアタシたちは帰るよ」
「え?僕だけ帰るから、三人で」
葵が申し訳なさそうにそう言うと、島田さんはため息を吐いた。
「アタシがそうしたいから気にすんな。それに結構限界来てるでしょ?ほら、乗って」
島田さんはそう言うと、前かがみになって葵に乗る様に催促をした。葵は困ったような表情を浮かべた後、申し訳なさそうに彼女におんぶしてもらっていた。
「じゃあ、アタシたちはこのまま帰るけど、二人はどうするの?」
「俺たちは……どうしようか?」
「え?私は優也君といられれば、ここにいても帰っても構いませんけど」
美姫に午後はどうするかと聞いたんだけど、美姫は帰ってもここに残ってもどちらでも構わないそうだ。
「まぁ、結構今日は疲れた気がするから俺たちも帰るか」
「そうしましょうか」
「そっか。それじゃあ駅まで一緒に行こっか」
俺たちはそのまま四人で駅まで向かうことにした。葵を背負うのを俺がやろうかと島田さんに聞いたんだけど、彼女がやりたいらしく俺たちは彼女を心の中で応援しながら、隣を歩いていた。
駅で二人と別れた後、俺たちは電車に乗った。
「少し前まであんなに賑やかだったのに、今は静かですね」
「ああ、そうだな」
俺たちは肩を寄せ合いながら、椅子に座っていた。
「まぁ、家に帰ったらまた騒がしいだろう」
「ふふっ。そうですね。天音ちゃんとか梨沙ちゃんあたりが今日のこと聞いてくるかもしれませんね」
「そうだなー」
俺が美姫の言葉に返事をすると、彼女は微笑んだ。
「上の空ですね。葵君たちのことを考えているんですか?」
「まぁ、そうだな。いつもは彼女たちに囲まれてるけど、ああやって友達と遊ぶってのも楽しいもんなんだな」
「そうですね……気の合う友達となら楽しいんじゃないかと思いますよ」
「ま、そりゃそうだ」
気の合わない奴と遊びに行っても、楽しかったと思えることはないだろう。大切な人、それが恋人だけじゃなく、友人だったとしても、成り立つんだな。
「まぁ、私たちの場合は周りが恋愛、恋人だらけですからね」
「主に美姫さんのせいでね……」
「ふふふ、満更でもないでしょう?」
「うっせ」
美姫はからかう様にそう言った。
「まぁ私の場合は天音ちゃんとよく遊びに行くんですけど、それ以外のメンバーとはあまり行かないんですよね。今度梨沙ちゃんとかと出かけてみましょうかね」
美姫はそう言うとスマホを取り出して、早速メッセージを送信していた。
最寄り駅に着いた俺たちは、電車から出た。何時ものように恋人つなぎをしながら歩いていた。すると、こっちに千春が走ってきた。
「あれ、千春ちゃん!?」
「お兄ちゃんに、美姫お姉ちゃん。早かったんですね?」
「はい。優也君のクラスメイトの男の子にあまり無茶をさせないようにと、今日は早めに解散にしたんです」
千春は美姫の話を聞いて、「なるほどなるほど」と言った。そして、良いことを思いついたと言わんばかりの表情を浮かべた。
「じゃあ、このまま駅前で三人で遊びに行きませんか!?」
「千春は何か用事があるんじゃないのか?」
「うん?私はちょうど用事を済ませてきたところだから、駄目かな美姫お姉ちゃん?」
千春はそう言うと、美姫に甘えるような声でそう言った。美姫は俺の方を向いた。
「義妹にお願いされたら、断るわけにも行きませんね。それに、時間はたっぷりありますから、一緒に遊びに行きませんか?」
「ああ、分かったよ」
「やった。ありがとう、お兄ちゃん」
俺が首を縦に振ると、千春は嬉しそうに俺に抱きついてきた。
そして俺たちは夕方頃まで、三人でデートするのだった。




