#20:瑠璃vs茜
瑠璃ちゃんと茜ちゃんの相性は悪いみたいですね……
「ただいま戻りました優也君」
「優君お待たせ―。優君と瑠璃ちゃんの分も、はいどうぞ」
天音はそう言うと、俺たちの分のジュースも買ってきてくれた。別に頼んではいないけど、こういった気遣いができることも天音の魅力なんだろう。
「優也君」
「どうした、美姫」
美姫が俺のことを呼んだ。すると横を見るように促されて、彼女はその隙に俺の耳に手を当てた。
「優也君、渡会さんと何かありましたか?」
「い、いや何もなかったけど」
天音と渡会の二人が会話に夢中になって居たので、美姫にしか聞こえないくらい小さな声でそう言った。美姫はあまり納得のいってなさそうな表情ではあったものの、これ以上特に言及してくることはなかった。
しばらくして、徐々に生徒が登校してきて教室にも俺たち以外の生徒たちがちらほら入ってきた。
「お、おはよう優也君」
「おはよう葵」
「今日も相変わらず、仲がいいんだね」
「あ、葵ちゃんおはよう。勿論私たちは親友だからね」
「おはようございます、赤坂君」
「あら、おはよう赤坂君」
「み、皆さんもおはようございます。後葵ちゃんは辞めてください。うぅ……恥ずかしいです」
そう天音に言うと、恥ずかしそうに身を縮めた。こうして見ると凄く可愛らしく、天音が女子みたいって言うのも分かるんだけどなぁ。実際葵と二人でいても偶に、男子からチッという声が聞こえてきたことさえあるからな。
「あ、せーんぱい」
「何だ、小泉」
「久しぶりに感じる先輩の鼓動です」
小泉はそう言うと、俺に抱き着いてきた。彼女の顔を見るとニヤニヤとしながら俺のことを見てきた。そんな彼女の表情を見ることのできない男子たちからの視線が痛い。いや、こいつの場合俺は好きでやってるわけじゃないんだけどなぁ。
「とりあえず離れたらどうかしら?月田君もいつまで教室でデレデレしてるつもりなのかしら?」
「あ、厳しい先輩だ」
「私は渡会よ。クラスの会長として教室でのそういった行為は慎んでもらわないといけないのよ」
「えー嫌です。先輩に抱き着いて揶揄っていいのは後輩の特権なんです」
「いや、そんな権利上げた覚えないんだけど」
「あ、先輩は黙っててください」
滅茶苦茶笑顔で小泉に言われた。俺と体が触れる時に叫ぶしぐさを見せられるよりも何倍も怖い表情を見て俺は大人しく黙ることにした。何かいつもと気迫が違ったような気がする。
「大体貴方は、一年生でしょう?用もないのに二年生の教室に来ないでいただけるかしら?」
「用事ならありますよ。先輩を揶揄わないと私生きていけないんです」
「そんなわけないじゃない。それに別に月田君じゃなくてもいいじゃない?」
「あ、それは無理です。先輩の反応がいいんで。それにこんなこと先輩以外にはしたくないですし」
いや、それはいい迷惑だから。そう口にしたかったけど凄い笑顔で俺のことを見てる。もし今そんなことを言ったら確実に彼女に何かされる。
「ちょっ、ちょっと二人とも落ち着いて」
「私はこの生意気な後輩を指導しなきゃいけないのよ。他人に迷惑をかけるんじゃないわよ」
「へぇ、奇遇ですね。私も、お堅い規則で私たちを縛ろうとしている渡会先輩に指導しなきゃいけないんです」
渡会と小泉の目から火花が飛び交っているような感じだ。二人とも普通の声で喋っているため、周りには聞こえていない。そんな二人を慌てたような様子で天音が何とか間に入っていた。
「あわわ、あの二人大丈夫なの優也君?」
「いやー、大丈夫じゃないと思うけどなぁ」
「ふふふ、青春ですね。ただあのまま放っておくわけにもいかないので、少し二人とお話してきますね」
美姫が二人と話し始めて一分もたたないうちに二人の喧嘩は収まったのだった。一体美姫は何を彼女たちに言ったのだろうか。俺はふとそんなことを思ったが、直ぐに忘れてしまったのであった。




