#207:クレープ
前に葵君たちが行った、学校最寄りの駅前のクレープ屋とは別のクレープ屋さんです。
「あ、こっちこっちー」
島田さんに案内されるがままに、俺たちは着いていった。葵に何処に行くかを聞いてみたんだけど、彼も知らないらしい。
電車に乗ってしばらく経った後、どうやら目的の駅に着いたらしい。凄く大きな駅だ。
「ここって確か」
「そそ、若者に大人気な街らしいよ。アタシもよく、クラスメイトと一緒に来るんだー」
島田さんはそう言うと、スマホ画面を見せてきた。そこには彼女とクラスメイトが遊んでいる写真が写っていた。
「それで、ここで何をするんですか?」
「何って……食べ歩きとかおしゃれな品を見に行ったりするんだよ」
島田さんは、当たり前でしょと言わんばかりの様子でそう言った。そんな彼女の言葉を聞いて葵がぶるぶると震えた。
「ぼ、僕帰っていいかな?小食だし、ファッションもあれだし……その、人混みも苦手だから」
葵がオドオドとした様子でそう言った。すると、島田さんが彼の手を握った。
「まったく情けないなー。安心して、食べきれない分はアタシが食べてあげるから。それに人混みが苦手ってのを忘れるくらい、楽しい思い出にしてあげるからさ」
島田さんがそう言うと、葵君は困ったような表情を浮かべた。やがて意を決したように「……そう言うことなら頑張ってみる」と言った。
「やった!決まりだね。それじゃあ早速クレープでも食べに行こっか。こっちにあるお店が美味しいんだー」
そう言うと彼女は、お店がある方向に歩き出した。俺と美姫も彼女たちに少し遅れるようにして後を歩いた。
クレープ屋さんでは、俺は苺のクレープを、島田さんはチョコバナナを、美姫はキャラメルのクレープを頼んでいた。ちなみに葵はクレープを一個食べれる自信がないと言っていたので、追加で島田さんがガトーショコラのクレープを頼んで、それを葵が少しもらうことになったらしい。
俺は苺のクレープを一口食べた。……うん、美味しい。目の前で美姫が美味しそうにクレープを一口食べていた。そして、俺と目が合うと、彼女は手に持っていたクレープを俺の口元まで運んできた。
「はい、優也君。あーんです」
美姫はそう言うと、彼女のクレープを食べさせてきた。こっちの味も美味しいな。
「優也君、私にも……」
「ああ。はい、あーん」
今度は俺が美姫に苺のクレープを食べさせてあげた。すると彼女は目を輝かせて、美味しそうな表情を浮かべていた。
「うわ、凄いね。二人とも」
僕――赤坂 葵はクレープを食べさせあいながらイチャイチャしている二人を見てそう言った。僕の言葉に島田さんも頷いていた。そんな二人を横目に、もう既にクレープを最後の一口まで食べ終わっている島田さんのことを見た。
「というか、島田さんって本当にクレープが好きだよね」
テストの補習の帰り、島田さんに連れて行ってもらった時もクレープ食べたから。あの時は学校の近くの駅前だったけど、今回は電車で移動している。どうやら、ここのお店はクラスメイトの子に聞いて、興味本位できたらしい。それ以来皆でよく来るようになったらしい。そんな彼女の交友関係の広さに驚くと同時に、少し羨ましさも感じる。
僕がそんなことを思っていると、いつの間にかクレープを全部食べ終えた彼女が「まーね」と言った。
夏休みに入って彼女と出かけた回数はそう多くはないけど、時々遊ぼうと誘ってくれる。彼女と遊んでいる間は、不思議と体を気にすることなく、楽しく遊ぶことができる。それに彼女と一緒にいると、胸がドキドキする。今も何故かドキドキする。
「あれ、クレープもう食べないの?」
「う、うん」
「じゃあ、残りはアタシが食べるね」
彼女は僕からクレープを受け取ると、残りをあっという間に食べた。本当においしそうに食べるなぁ。僕はしばらくの間、彼女のことをぼんやりと見つめていた。




