#1:幼馴染の彼女
美姫ちゃん大暴走。
「はい。私も優也君のことが好きです。だから、私と付き合ってください」
「良かった。振られるかと思ってたけど」
「そうなんですか?結構密着したりとかしてアピールは、さりげなくしていたつもりですけど」
美姫はそういうとコテンと可愛らしく首を傾げた。俺たちは、その場で抱きしめあった。そして、俺が彼女に顔を近づけた瞬間屋上の入口の方から大きな物音がした。
物音のあったほうに近づくと、そこには物陰に隠れている天音の姿があった。
「天音!?なんでここに?」
「それは私だけ先に帰れって言われても気になっちゃうじゃん。優君だけじゃなくて、美姫ちゃんも一緒に帰れないって言われたら寂しいもん」
「俺たちの話ってどこまで聞いてた?」
「付き合うところまで、ばっちり聞いてたよ。お、おめでとう」
いつも元気な天音にしては珍しく、今にも消えてしまいそうなほどのか細い声で言った。
「う、うえーん。私も伝えたかったよぉ」
天音は泣きながら美姫の胸へと飛び込んだ。美姫は少し驚きながらも、優しく彼女の頭をなでていた。
「よしよし、大丈夫ですよ」
「私も優君のこと好きだもん。言いたかったんだもん」
「別に彼女がいる人に告白してはいけないきまりなんてありませんよ?それに少し待っててくださいね。優也君と話をつけてくるので」
しばらくの間美姫が天音の頭を撫でた後、天音をその場に残して俺のもとに来た。
「優也君は彼女がその……ほしくないですか?」
突然、美姫がおかしなことを俺に聞いてきた。
「欲しいに決まっているっていうか、だから美姫に告白したんだけど」
「分かりました。彼女作りませんか?」
「え?彼女を作るって。美姫は俺の彼女になってくれたんじゃ……?」
「はい、そうですよ。そしてその上で聞いています。そもそも、別に私は優也君を独占するつもりはないですしね」
話がまったく見えてこない。つまり美姫は何が言いたいんだろう、そう思っていると突然天音がこちらに走ってきた。
「美姫ちゃん、今の話本当!?」
「はい、勿論ですよ。ですから、私のことは気にせずに、勇気を持ってください」
「ふえっ!?ゆ、勇気を持って……うん、頑張ってみる」
美姫にが何かを言うと、天音は一瞬驚いた表情を浮かべた後小言で何やら呟いた。そして、覚悟が決まったような表情で俺のことを見つめてきた。
「優君、好きです。付き合って下さい」
「天音!?お前も俺のことを」
「うん、大好き。小さい頃から、家族同然に過ごしてきてあんまり女の子として見てもらえてないかもしれないけど、ずっとずっと大好き」
天音はそう言うと俺に抱き着いてきた。天音が俺のことを好き?美姫のことでさえも、信じられなかったというのに天音まで俺のことが好きだというとは思ってなかった。よくよく思い返してみれば、やたらと二人が密着してくるのは、親友兼幼馴染だからと言っていたけどあれは照れ隠しだったのだろう。だけど、いつからかそれに納得してしまう自分がいて、最近は何とも思っていなかった。だから二人に好きといわれて驚いている。
――ただ、それでも俺は。
「美姫もだけど、天音にそう言われるとは思って無くて驚いた。だけど、ごめん俺は美姫の彼氏だ。だから、その付き合うっていうのは……」
ごめん――そう言おうとすると、俺の唇が指でふさがれた。
「み、美姫?」
「私のことは気にしなくていいですよ、優也君」
「どういうことだ?」
「優也君は天音ちゃんのこと異性として、好きですか?」
先ほど彼女になったばかりの美姫にそう問われている。
「明るくて誰かのために行動できるその性格も好きだし、顔も可愛いと思うし……何より一緒にいて楽しいと思う」
「好き……なんですね?」
「美姫の前でいうのもあれだけど、そうなのかもしれない。でも、俺は」
「ふふっ、じゃあ決まりですね」
そう言うと、美姫は俺の前に立った。
「天音ちゃんも優君の彼女にしてあげてください」
そして真っすぐと俺の目を見てそう言った。