#191:甘い空間
「あ、いたいた。月田君と天音さん。そろそろ出来上がるみたいだから、早く戻ってきて頂戴」
「ああ、分かった。今行く」
しばらく二人きりでイチャイチャしていると、瑠璃が俺たちのことを呼びに来てくれたらしい。俺と美姫が野菜を切ってから結構な時間が経ってしまっていたけど、この間に他のメンバーは順調にそれぞれの分担を行ってくれたらしい。
俺たちが皆の場所にいると、既にテーブルの上には盛り付けられた料理が並べられており、配膳係以外のメンバーは既に席についていた。
「あ、お兄さん。やっと来ましたね」
「お二人の分もすぐに持ってきますの」
梨沙と南園さんはそう言うと、鍋とかが置いてある方へと向かっていた。
「どうでしたか、二人とも。二人きりの時間は楽しめましたか?」
「ああ」
「うんうん!楽しかったよ。ありがとう、美姫ちゃん」
「どういたしまして」
天音からの「ありがとう」という言葉に、少し嬉しそうな表情を浮かべた美姫。
「やっぱり癒されますね、優也君」
「ああ、そうだな」
「うん?何の話?」
天音が不思議そうに俺たちのことを交互に見てきた。
「いや、天音が可愛いって話だよ」
「そうですよ」
「そ、そっか……えへへ」
「お姉様が可愛いのは当然のことです!」
俺と美姫に可愛いと言われて、タジタジになっている天音。そして香音が追い打ちをかけるようにして、さも当然とばかりに言った。天音は恥ずかしさが限界に達したのか、顔を真っ赤にしてテーブルに顔を伏せた。
「お待たせしましたーお兄さん」
「天音ちゃん持っていたよー……って、どうかしたの?」
少し経った後、梨沙と姉さんが残りの分をお盆に乗せて運んできてくれた。姉さんは机に突っ伏している天音を見て、どうかしたのかと不思議な表情を浮かべていた。
俺は梨沙から料理を受け取りつつ、姉さんに先程あったことを説明した。すると姉さんは少し呆れたような表情を浮かべた。
「気持ちは分かるけど、ほどほどにしときなよ」
姉さんが俺たちにそう言うと、天音は顔を上げて姉さんのことを目を輝かせてじっと見つめていた。
「偶にやる分には、反応が可愛らしいし良いと思うよ」
「それフォローになってないよ!?」
天音は、先程までの表情とは一転変わって焦ったようにそう叫んだ。
「はい、お兄さん。あーんです」
「あ、あーん」
俺は今、梨沙にご飯を食べさせてもらっていた。俺たちがいない間に、席順はくじ引きによって決められていたらしく、俺の両隣は梨沙と南園さんになっていた。
梨沙は俺が席に座ると、待ってましたと言わんばかりにロなりに座った。そして、スプーンを取ると、カレーをすくって俺の口元まで運んできた。目を輝かせながらじっと見つめてくる彼女に負けて、俺は食べさせてもらう。
「どうですか、お兄さん?」
「うん、美味しいよ」
自分で野菜を切ったからか、はたまあ梨沙に食べさせてもらったからか、どちらかは分からいけど、いつも食べるカレーライスより美味しく感じる。自分のスプーンを手に取って、自分のカレーライスを食べようとすると、今度は反対側から腕を突かれた。
振り返ると、南園さんは梨沙の真似をするようにカレーライスをスプーンですくって俺の口元まで運んできた。
「はい、あーんですの」
「え?」
俺が情けない声を出している間に、口の中に放り込まれた。
「これ、やってみたかったんですの。目の前でやられて、黙ってみているだけ何て勿体ないですの……って皆さんどうしたんですの?」
南園さんが突然震えだした。彼女の視線の先を見ると、羨ましそうにそして少しだけ恨めしそうにこちらを見ている数々の視線が合った。
結局俺は彼女たちに一口ずつ食べさせてもらうことになった。ちなみに南園さんはその間、北園さんに少し怒られていたらしい。




