#177:ダブルデート?
「こんなものでいいかな」
俺は今デートに行く支度をしていた。今日は元々用事はなかったんだけど、美姫がダブルデートをしたいとのことだったので一緒に行くことになった。
「それで、誰なんだ?」
「天音ちゃんと香音ちゃんです」
「お、おう……そうか?」
「はい!」
ニコニコとしながらそう言う美姫。何を考えているのかは分からないけど、まぁ香音は喜びそうなシチュエーションだろうな。
「あ、来た来た優君!」
「やっと来ましたか、お兄様」
集合場所である駅前に着くと、俺たちを見つけて笑顔で手を振る天音と、少しご機嫌斜めな様子の香音がいた。
「ごめんごめん」
「すみません。少し私が支度に戸惑ってしまったので」
「大丈夫だよ、美姫ちゃん。それじゃあ、行こっか」
天音がそう言うと、香音が天音の手を取った。これからダブルデートが始まるのだろうと思っていたのだが、何故か香音が俺の手を握ってきた。
「え?」
「え?」
ダブルデート……何だよな?俺はそう思っていたので、手をつないできた天音に驚いていると、彼女も同様に俺のことを見て驚きの表情を浮かべていた。
「これってダブルデートなんだよな?」
「うん。それはそうなんだけど、私も優君の彼女だし別にいっかなって」
「それじゃダブルデートじゃないような」
俺が少し困ったようにそう言うと、天音は目をウルウルとさせて、俺のことをじっと見つめてきた。
「優君……私のこと嫌いになっちゃった?」
「いやいや、そんなことないから!?ああ、もう分かったから」
その表情で見つめてくるのは反則だろう。そんな彼女の表情と仕草に負けて、手を繋ぐことを了承した。すると彼女は、先ほどまでの表情が嘘だったかのように満面の笑みを浮かべていた。……思ってたダブルデートとは違ったけど、まぁいいか。
「……とはいえ、四人で手をつなぐと流石に邪魔じゃねえか?」
「仕方ありませんね。私は三人を後ろから見守っていますね」
美姫はそう言うと、手を離した。
「えへへ~優君。今日はね、駅の反対側にあるお店に行こうと思ってるんだー」
「へ~どんなところなんだ?」
そう思って天音の方を見ると、その奥に頬を膨らませて不満そうな様子の香音がいた。そんな香音を見て、どうしようかと少し困っていた。すると天音が不思議そうな表情を浮かべて俺の顔を覗き込むようにしてみてきた。
「優君。どうかしたの?」
「い、いやなんでもない……それよりも……」
俺は香音の方を見ていたことを悟られないように、天音と会話していた。すると天音は困ったような表情を浮かべた後、美姫の方を向いた。
「すみません。少し美姫お姉様とお話ししてきますね」
「え、ああ」
「うん、分かった」
香音はそう言うと、天音とつないでいた手を放して、後ろにいる美姫の隣に移動した。それにしても、香音は今日大人しかった気がする。いつもなら、俺と天音が手をつないでいる時なんかは、間に割り込んで離そうとしてくるのにな。今日はその様子が一切なく、ずっと俺たちを見つめてくるだけだ。
「今から食べるケーキを想像しただけで、お腹がすいてきたよぉ」
「それは……単純に朝、あんまり食べてないからじゃないか?」
「あっ、それはそうかも」
天音はそういえばと言わんばかりの表情を浮かべた。
「だってスイーツバイキングだもん。楽しみだよね」
「前にも行ったけど、あの店とはやっぱり違うのか?」
「うんうん。全然違うよ?種類も違ってそうだったからね」
天音はそう言うと、スマホでお店のウェブサイトを見せてきた。
「あ、お待たせしました。それじゃあ、行きましょうか」
そう言うと香音は何故か、俺の手を繋いできた。驚いて彼女の方を見ると、真っ赤に染まっていた。




