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#172:瑠璃の料理

「はぁ~疲れた~」

「ふふふ、お疲れ様。読む速度としては自分で呼んだ方が早かったけれど、普段よりもとても楽しめたから……お疲れ様月田君」


 瑠璃はそう言うと、俺の頭をなでてきた。本の読み聞かせをしている間、俺を応援するかのように頭を撫でていたのだが、どうやらそれが少し癖になってしまったようだ。むず痒いからやめてくれと、彼女にお願いした。


「月田君のデレデレとした姿が見れなくなるから遠慮しておくわね」


 と断られてしまい、その直後に体を寄せて再び頭をなでた。これが俺に頭をなでられる時に、たまに天音が「子供扱いしないで」と言ってくる感情なのだろうか。確かに、姉のような存在にしてもらっている感じがして、少し距離を感じてしまうのかもしれない。


 今なら、あの時に不満げにしていた天音の気持ちも少しは分かる。好きな異性に、頭を撫でられているけどそれは恋愛対象としてではなく、保護対象のように接されたら、嬉しいけど……やっぱり複雑な意味合いが大きいんだろうな。


 そして恐らく俺も、当時の天音と同じ状況なのかもしれない。瑠璃に頭をなでられるのが嬉しいと思いつつも、恥ずかしさや異性としてみてほしい感情からモヤモヤしている。だから、辞めるように言ってしまっているのだろう。やっぱり俺は瑠璃のことが好きなんだろうな。


 俺がそんなことを考えていると、瑠璃は目を細めてからかうような笑みを浮かべていた。


「どうかしたのかしら?」

「いや……何でもないけど」

「ふふっ、そうかしら?さてと、それじゃあ、皆の所に戻りましょうか」


 瑠璃はそう言うと、立ち上がって部屋から出て行った。俺は二人きりじゃなくなったことに対する虚無感に襲われながらも、彼女を追いかけた。




「さてと、それじゃあお昼ご飯を作ってくるわ」


 瑠璃はそう言うと、キッチンの方へと向かっていった。今日は瑠璃がお昼ご飯を作るらしい。本人曰く何もしてないのに止めてもらっているのは好まないらしい。美姫は別に気にしないと言っていたけど、本人が望んでいることっぽかったので深くは止めていなかった。


「瑠璃ちゃんどんな料理作るのかな?なんだと思う、優君?」

「さ、さあ?瑠璃の家庭は制約が多かったとは聞くけど、家事の話は聞いたことがなかったからな」


 しばらく経った後、瑠璃とメイドさんが料理を運んできた。そこには様々な料理が並べられている……というかフルコースでは?


「こ、これは瑠璃が一人で作ったのか?」

「そうね。一部は手伝ってもらったけれど、基本的には自分でやったわね」

「ほっほっほ。私も近くで見ておりましたが、素晴らしい技術をお持ちでしたぞ」


 いつの間にか部屋の隅っこにいた、執事長であるセバスさんがそう言った。


「で、でもこれ夕食じゃないけど……こんなに食べきれますかね?」

「……あ」


 困惑したように茜が言うと、瑠璃から普段の彼女が絶対に言わなさそうな気の抜けた声が出た。


「ま、まぁ。使用人の方で食べたい方にも振舞ってあげたらどうかな?構わないかな、美姫ちゃん」

「ええ、構いません。そのように伝達をお願いします、セバス」

「かしこまりました」


 セバスさんはそう言うと、無線機のようなもので連絡を取っていた。




「ど、どうかしら?」


 俺が昼食に手を付け一口目を頂くと、不安そうな表情を浮かべて瑠璃が覗き込むように俺のことを見てきた。


「うん、おいしいよ」

「そ、そっか。それなら良いのだけれど……」


 瑠璃はそう言いながらも、肩の力を思いっきり抜いており、安堵した様子を浮かべていた。


「良かったね、瑠璃ちゃん。優君に美味しいって言ってもらって」

「ええ。好きな人に、美味しいって言ってもらえるのはやっぱり嬉しいわね」


 瑠璃はそう言うと、笑顔で俺のことを見てきた。そんな彼女の笑顔にドキドキさせられて、また見惚れていた。


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