#170:瑠璃は攻める
「さてと、月田君?」
渡会はそう言うと、俺のことを見定めるように見つめてきた。
「え、あ……はい」
「家のことがあったから、遠慮はしていたけれど……ここからは本気で行くわよ?私今までの人生で我慢してきたことはたくさんあるけれど、こればっかりは我慢できそうにないもの」
渡会はそう言うと、体をジッと寄せてきた。ドキドキしながらも彼女のことを見ると、彼女はニヤッと笑って、からかうようにさらに体を当ててきた。
「まさか好きな人ができるなんてね。……高校に入学する前の私だったら考えられないでしょうね」
渡会はそう言うと、俺のことを抱きしめて愛おしそうな表情をしながら頭をなでた。
「それにその月田君とこうして抱き合うことができるというのも夢なのかしらね?」
「いや……」
俺がそう言おうとすると、彼女は俺の口を二本の指でふさいだ。
「ふふっ。ここで終わったらただの夢なのよ?月田君のハートを、今日から本格的に狙っていくつもりだか……覚悟しておくことね」
渡会は余裕のある笑みを浮かべた。実際、彼女といい感じのところまで意気そうになったタイミングで彼女の方から、親のことがあるからと後にするように言われていたからな。
「美姫さん。申し訳ないのだけれど、月田君を借りてもいいかしら?」
「構いませんよ。応援しているんで、頑張ってくださいね」
「ええ、ありがとう。それじゃあ、月田君のお部屋に行きましょうか?」
渡会はそう言うと、美姫の家にある俺の部屋に案内するように促された。
部屋に入ると、渡会は振り返って部屋の鍵を閉めた。
「わ、渡会さん?」
「ふふふ、これで邪魔は入らないわよ?美姫さんは鍵を持っているでしょうけど、彼女なら察してしばらくは入ってこないでしょうし、二人きりの時間を楽しみましょう?」
渡会はそう言うと、俺に抱き着いてきた。
「わ、渡会さん?ちょっと落ち着いてくれ?」
「ふふっ。私は十分落ち着いているのだけれど。それと、今は折角二人きりなのだし……前のデートの時みたいに瑠璃って呼んでほしいのだけれど」
「わ、分かったから。落ち着いてくれ瑠璃」
「仕方ないわね。貴方彼女たくさんいるんだから、少し離れていないのかしら?」
「いや、まぁ……みんな積極的だからね。彼女と抱き合っている分にはある程度慣れてきたけど、渡会とは付き合っているわけでもないから……まぁ、その人によるかな」
何も感じないというのは嘘ではあるけど、美姫や天音と抱きついているときは、他のメンバーに比べるとあまりドキドキはしない。どちらかというと彼女たちからは安心感とか安らぎのようなものを感じることができる。幼い頃からたくさんハグしたりイチャイチャしたりしてきたからだろうけど、茜とかと最初にハグをしたりする時には凄くドキドキした。
慣れてないことをするとドキドキするのは勿論だけど、それとはまた違う感じがする。気恥ずかしさなんだろうか?
「月田君照れているのね。可愛いわよ」
瑠璃はそう言って俺の頬を、ツンツンと突いてきた。
「月田君……そのいいかしら?」
「え?」
「も、もう。察しが悪いわね。まぁ私だけで遅れているのも気に食わないから、失礼させてもらうのだけれどね」
瑠璃はそう言うと、俺の唇に軽く触れる程度のキスをしてきた。キスが終わると、彼女は少し恥じらう様子がうかがえた。
「これで皆に少しは近づけたかしらね」
瑠璃は苦笑いでそう言った。実際瑠璃の事は好きだけど、両親の件があったりしてお互いに直接想いを伝えてはいない。いや、今のは意思表示なのだろうか?
「月田君。もう分かっていると思うけれど、私は貴方のことが好きよ」
「う、うん」
「とりあえず仮彼女は拒まれないって、美姫さんが言っていたからそれになるわね。気が向いたらいつでも告白してきて頂戴」
俺があっけからんとしている間に、また一人仮彼女が増えた。




